Intel Graphics

インテルグラフィックス：統合型GPUの進化

インテルグラフィックス（Intel Graphics）は、インテルが開発・製造するCPUに統合されたグラフィックスプロセッサ（iGPU）のシリーズ名です。初期の「Intel HD Graphics」から始まり、その後「Intel Iris Graphics」「Intel Iris Pro Graphics」「Intel Iris Plus Graphics」「Intel UHD Graphics」といったブランドが追加されました。これらの派生ブランドも含め、インテルグラフィックスの進化と詳細について解説します。

概要

インテルグラフィックスは、従来のIntel Graphics Media Accelerator（Intel GMA）シリーズの後継として登場しました。CPUに統合される形で設計され、単体GPU（dGPU）と比較してコスト削減と消費電力低減に貢献しています。主に、高いグラフィックス性能を必要としない安価なコンピュータのオンボードグラフィックスとして採用されています。専用のVRAMは搭載せず、メインメモリをCPUと共有するユニファイドメモリアーキテクチャを採用しているのが特徴です。

登場以前、インテルの内蔵グラフィックス機能はマザーボード上のノースブリッジに組み込まれていました。その後、Platform Controller Hub（PCH）の登場によりノースブリッジが廃止され、グラフィックス処理機能はCPUに統合されました。

各世代の進化

インテルグラフィックスの世代は、CPUの世代とは独立しており、GPUの世代番号は初期の世代から通し番号で管理されています。各世代では、対応する規格やAPIが進化しており、以下に主な世代ごとの特徴をまとめます。

第5世代 (Westmere)

製造プロセス: 45nm
CPU: 第1世代Coreプロセッサー
初のHD Graphicsとして登場。
モバイル環境ではDynamic Frequency技術に対応し、CPU負荷に応じてGPUの動作クロックを調整。
前世代のGMA 4500シリーズから実行ユニットが2基増加。
対応API: DX 10.1(FL 10_1), OGL 2.1
対応出力: eDP, DP 1.1a, HDMI 1.3a, DVI, LVDS, VGA, HDCP, 2画面出力
その他: CVT HD, WiDi

第6世代 (Sandy Bridge)

製造プロセス: 32nm
CPU: 第2世代Coreプロセッサー
GPUがCPUダイに内蔵され、LLCも共有することでパフォーマンス向上。
デスクトップやサーバーでもDynamic Frequency技術に対応。
実行ユニット1基あたり8FLOPS/Clockに強化。
対応API: DX 10.1(FL 10_1), OGL 3.1(Win)/3.3(mac/Linux)
対応出力: eDP, DP 1.1a, HDMI 1.4a, DVI, LVDS, VGA, HDCP, 2画面出力
その他: QSV, CVT HD, InTru3D, Insider, WiDi, VC-1ハードウェアデコード

第7世代 (Ivy Bridge)

製造プロセス: 22nm(Tri-gate)
CPU: 第3世代Coreプロセッサー
実行ユニット1基あたり16FLOPS/Clockに強化。
対応API: DX 11.0(FL 11_0), Metal 2, OGL 4.0(Win)/4.1(mac)/4.2(Linux), OCL 1.2
対応出力: eDP, DP 1.1a, HDMI 1.4a, DVI, LVDS, VGA, HDCP, 3画面出力, 4K出力
その他: QSV 2, CVT HD, InTru3D, Insider, WiDi

Bay Trail
製造プロセス: 22nm
CPU: Celeron N2xxx/J1xxx, Pentium N35xx/J2xxx
対応API: DX 11.0(FL 11_0), OGL 4.0(Win)/4.2(Linux), OCL 1.2
対応出力: eDP, DP 1.1a, HDMI 1.4a, DVI, VGA, HDCP, 2画面出力
その他: QSV 2, CVT, WiDi

第7.5世代 (Haswell)

製造プロセス: 22nm
CPU: 第4世代Coreプロセッサー
CMAA（アンチエイリアス）の追加、Adaptive Rendering Controlによる省電力機能の追加。
GT3ではスライス単位でパワーゲーティングが可能に。
GT3e (Crystal Well) ではeDRAMを搭載し、帯域幅を必要とする処理を高速化。
DirectX 12 に初めて対応。
対応API: DX 12(FL 11_1), Metal 2, OGL 4.3(Win)/4.1(mac)/4.6(Linux), OCL 1.2
対応出力: eDP, DP 1.2a, HDMI 1.4a, DVI, VGA, HDCP, 3画面出力。HDMI 1.4 4K(24Hz)出力。
LVDSが廃止された
その他: QSV 3, CVT HD, InTru3D, Insider, WiDi

第8世代 (Broadwell)

製造プロセス: 14nm
CPU: 第5世代Coreプロセッサー
実行ユニット1基あたり8 IOPS/Clockに強化。
CPUとGPUコア間でのデータ交換が容易化。
対応API: DX 12(FL 11_1), Metal 2, Vulkan 1.1(Linux), OGL 4.4(Win)/4.1(mac)/4.6(Linux), OCL 2.0(Win)/1.2(mac)/2.1(Linux)
対応出力: eDP, DP 1.2a, HDMI 1.4a, DVI, VGA, HDCP, 3画面出力, DP 1.2の高解像度出力
その他: QSV 4, CVT HD, WiDi, VP8ハードウェアデコード

Braswell
製造プロセス: 14nm
CPU: Celeron N/J30xx～31xx, Pentium N/J37xx
対応API: DX 12(FL 11_1), Vulkan 1.1(Linux), OGL 4.4(Win)/4.6(Linux), OCL 2.0(Win)/1.2(Linux)
対応出力: eDP, DP 1.1a, HDMI 1.4b, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 4, CVT HD, WiDi、H.265/HEVCのハードウェアデコード

第9世代 (Skylake)

製造プロセス: 14nm
CPU: 第6世代Coreプロセッサー
CPUとGPUの連携やマルチタスク性能が向上。
実行モデルがSOA/Scalar型（SIMT）のみになる。
eDRAMの制御がシステムエージェントに移行。
対応API: DX 12(FL 12_1), Metal 2, Vulkan 1.3(Win/Linux), OGL 4.6(Win/Linux)/4.1(mac), OCL 2.0(Win)/1.2(mac)/3.0(Linux)
対応出力: eDP, DP 1.2a, HDMI 1.4b, DVI, HDCP, 3画面出力。VGAが廃止。
その他: QSV 5, CVT HD, WiDi

Apollo Lake
製造プロセス: 14nm
CPU: Celeron N/J33xx～34xx, Pentium N/J42xx
対応API: DX 12(FL 12_1), Vulkan 1.3(Win/Linux), OGL 4.6(Win/Linux), OCL 2.0(Win)/3.0(Linux)
対応出力: eDP, DP 1.2a, HDMI 1.4b, MIPI DSI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 5, CVT HD、VP9のハードウェアデコード、WiDiからMiracastへ移行

第9.5世代 (Kaby Lake)

製造プロセス: 14nm
CPU: 第7世代Coreプロセッサー
Windows Mixed Realityに対応。
対応API: DX 12(FL 12_1), Metal 2, Vulkan 1.3, OGL 4.6(Win/Linux)/4.1(mac), OCL 2.1(Win)/1.2(mac)/3.0(Linux)
対応出力: eDP, DP 1.2a, HDMI 1.4b, DVI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 6, CVT HD、ポストプロセッシングのハードウェア化

Kaby Lake-R/Amber Lake/Coffee Lake/Whiskey Lake/Comet Lake
製造プロセス: 14nm
CPU: 第7世代の一部を含む第8/第9/第10世代Coreプロセッサー
対応API: DX 12(FL 12_1), Metal 3, Vulkan 1.3, OGL 4.6(Win/Linux)/4.1(mac), OCL 2.1(Win)/1.2(mac)/3.0(Linux)
対応出力: eDP, DP 1.2a, HDMI 1.4b, DVI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 6, CVT HD

Gemini Lake
製造プロセス: 14nm
CPU: Celeron N/J40xx～41xx, Pentium N/J5xxx
対応API: DX 12(FL 12_1), Vulkan 1.3, OGL 4.6(Win/Linux), OCL 2.0(Win)/3.0(Linux)
対応出力: eDP, DP 1.2a, HDMI 2.0a, MIPI DSI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 6, CVT HD

第10世代 (Cannon Lake)

Cannon Lakeマイクロアーキテクチャに組み込まれたものが第10世代であったが、GPUが有効にされた製品が出荷されないまま事実上キャンセルされた。

第11世代 (Ice Lake)

製造プロセス: 10nm
CPU: 第10世代Coreプロセッサー
対応API: DX 12(FL 12_1), Metal 3, Vulkan 1.3, OGL 4.6(Win/Linux), OCL 3.0(Win/Linux)
対応出力: eDP, DP 1.4a, HDMI 2.0b, DVI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 7, CVT HD

Jasper Lake
製造プロセス: 10nm
CPU: Celeron N45xx～51xx, Pentium N6xxx
対応API: DX 12(FL 12_1), Vulkan 1.3, OGL 4.6(Win/Linux), OCL 3.0(Win/Linux)
対応出力: eDP, DP 1.4a, HDMI 2.0b, MIPI DSI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 7, CVT HD

第12世代以降 (Tiger Lake/Rocket Lake)

製造プロセス: 10nm(Tiger Lake), 14nm(Rocket Lake)
CPU: 第11世代Coreプロセッサー
Intel XeベースのGPUを内蔵。
対応API: DX 12(FL 12_1), Vulkan 1.3, OGL 4.6, OCL 3.0
対応出力: eDP, DP 1.4a, HDMI 2.0b, MIPI DSI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 8, CVT HD、AV1のハードウェアデコード

第12世代以降 (Alder Lake/Raptor Lake)

製造プロセス: Intel 7
CPU: 第12/第13/第14世代Coreプロセッサー
対応API: DX 12(FL 12_1), Vulkan 1.3, OGL 4.6, OCL 3.0
対応出力: eDP, DP 1.4a, HDMI 2.0b, MIPI DSI, HDCP, 4画面出力
その他: QSV 8, CVT HD

第12世代以降 (Alder Lake-N/Twin Lake)

製造プロセス: Intel 7
CPU: Intel Processor N5x～2xx, Core i3 N3xx, Core 3 N3xx
対応API: DX 12(FL 12_1), Vulkan 1.3, OGL 4.6, OCL 3.0
対応出力: eDP, DP 1.4a, HDMI 2.0b, MIPI DSI, HDCP, 3画面出力
その他: QSV 8, CVT HD

第12世代以降 (Meteor Lake/Arrow Lake)

製造プロセス: TSMC 5nm
CPU: Core Ultra プロセッサー（シリーズ1/シリーズ2）
対応API: DX 12(FL 12_2), Vulkan 1.3, OGL 4.6, OCL 3.0
対応出力: eDP, DP 2.1, HDMI 2.1, HDCP, 4画面出力
その他: QSV 9, CVT HD

関連情報

Intel GMA: インテルグラフィックスの前身
Intel Xe: インテルが開発する高性能GPUブランド
Intel Arc: インテルのディスクリートGPUブランド
AMD Accelerated Processing Unit (APU): AMDのCPUとGPU統合型プロセッサ
GPGPU: 汎用計算にGPUを利用する技術
Integrated Graphics Processor (IGP): CPUに内蔵されるGPU

外部リンク

* インテル® Iris® Xe グラフィックス

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