Internet Low Bitrate Codec

iLBC（Internet Low Bitrate Codec）とは

iLBC（Internet Low Bitrate Codec）は、Global IP Solutions社（旧Global IP Sound社）が開発した、ロイヤリティフリーのナローバンド音声符号化方式です。主にVoIP（Voice over Internet Protocol）などの用途で利用され、パケットロスが多いIPネットワーク環境下でも比較的安定した音質を保つことができる点が特徴です。

iLBCの概要

iLBCは、パケットロスやパケット遅延が発生しやすいIPネットワーク環境を考慮して設計されています。従来の音声コーデックでは、音声信号を一定時間（例えば20ms）のフレームに分割して処理し、複数のフレームにまたがる情報を用いて符号化・復号を行います。しかし、この方式ではパケットロスが発生すると、失われたフレーム以降の音声に悪影響が及び、音質が著しく劣化する問題がありました。

iLBCでは、各フレームを独立して符号化・復号することで、パケットロスや遅延の影響を最小限に抑える工夫が施されています。これにより、他のコーデックと比較して、パケットロス発生時の音質低下を穏やかにすることができます。

iLBCの特徴

- サンプリング周波数: 8 kHz/16 bit
- フレーム長: 20 msと30 msの2種類をサポート
- 固定ビットレート: 20 msフレームでは15.2 kbps、30 msフレームでは13.33 kbps
- 固定ブロックサイズ: 20 msフレームでは304ビット/ブロック、30 msフレームでは400ビット/ブロック
- パケットロスやパケット遅延による音質劣化が少ない
- ITU-T G.711（64kbps）のようなPCMと同程度のロバスト性を持つ
- ITU-T G.729a（8kbps）と同程度のCPU負荷で、基本音質は同等かそれ以上でパケットロス時の音質低下が少ない
- ロイヤリティフリー

iLBCの適用

iLBCは、Gizmo5、Ekiga、QuteCom、Google トーク、Yahoo! Messengerなど、多くのVoIPアプリケーションで音声コーデックの一つとして採用されています。

iLBCのデータ形式

iLBCの符号化データは、インターネット上で送受信する際に、Real-time Transport Protocol（RTP）を用いてパケット化されます。このデータ形式は、IETF標準のRFC 3952で定義されています。

iLBCのアルゴリズム

iLBCの符号化アルゴリズムは、IETF標準のRFC 3951で定義されています。このアルゴリズムは、線形予測符号化（LPC）と、線形予測の残差信号をフレーム単位で符号化する方法を組み合わせたものです。残差信号の符号化には、CELP（Code Excited Linear Prediction）のような適応型コードブックが用いられます。

iLBCの処理ステップ

1. フレームの分割: 20msまたは30msのフレームは、5ms（40サンプル）のサブフレームに分割されます。
2. 線形予測分析: 音声信号から線形予測係数（10次）を計算し、線スペクトル対に変換して量子化します。
3. 残差信号の計算: 音声信号を分析フィルタに通し、線形予測の残差信号を計算します。
4. 開始ステートの選択: 最もエネルギーの大きい連続する2つのサブフレームの先頭または最後を「開始ステート」として選択します。これは音声の周期性を利用した効率的な符号化に役立ちます。
5. コードブックを用いた符号化: 開始ステートから前向きまたは後ろ向きに、コードブックを用いた残差信号の符号化を行います。
6. パケット化: 得られたビット列をパケット化して伝送します。

iLBCの復号

復号処理は、符号化処理の逆の手順で行われます。

1. パラメータの抽出: 受信したパケットからパラメータを抽出します。
2. 線形予測係数の復元: 線スペクトル対を線形予測係数に変換し、補間します。
3. 開始ステートの構築: 量子化された開始ステートを元のサンプル値に復元します。
4. 残差信号の復号: 開始ステートから順に、残差信号を復号します。
5. 音声信号の生成: 復元された残差信号を線形予測フィルタに入力し、音声信号を生成します。
6. 後処理: 必要に応じて、ハイパスフィルタによる後処理を行い、低域成分のノイズを除去します。

開始ステートの重要性

開始ステートは、最もエネルギーの大きいサブフレームを選択することで、有声音の開始部分やピッチ周期の繰り返し波形の先頭部分である可能性が高く、音声波形の周期性を生かした効率の良い符号化を可能にします。また、開始ステートから前後方向に処理することで、現在のフレームのみでコードブックの構築が可能となり、フレーム間の依存性を排除してパケットロスに対する耐性を向上させています。

まとめ

iLBCは、パケットロスが多いネットワーク環境でも安定した音声品質を提供できるロバスト性の高い音声コーデックです。ロイヤリティフリーである点も広く利用される理由の一つです。

参考文献

- Jacob Benesty, M. M. Sondhi, Yiteng Huang (ed). Springer Handbook of Speech Processing. Springer, 2007. ISBN 978-3540491255.
- IETF Network Working Group. RFC3951 Internet Low Bit Rate Codec (iLBC). IETF. December 2004.
- IETF Network Working Group. RFC3952 RTP Payload Format for iLBC speech. IETF. December 2004.
- GIPS (2004年). “iLBC – Designed For The Future” (PDF). Global IP Sound Inc..

外部リンク

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