K-1 (ロケット)

K-1ロケット

K-1は、かつてアメリカの民間企業ロケットプレーン・キスラー社（Rocketplane Kistler, RpK）が開発を進めていた、完全再使用型の2段式ロケットおよびそれに搭載される宇宙船を指します。この革新的なプロジェクトは、アポロ計画で中心的な役割を担った経験豊富なマネージャーたちのチームによって主導されました。当初、K-1は特にイリジウム衛星群のような中軌道衛星の打ち上げを主要な目的として設計されていました。その最大の目標は、既存の使い捨て型ロケットに比べて大幅にコストを削減し、宇宙へのアクセスを容易にすることにありました。完全再使用型であることは、その目標達成に向けた核となる技術でした。

技術的特徴

K-1ロケットシステムは、高度な技術的特徴を備えていました。

• - 全長：約36.9メートル
• - 直径：約6.7メートル
• - 離陸時質量：382,300 kg

ペイロード能力に関しては、以下のように想定されていました。

• - 高度200km・軌道傾斜角45°の低軌道：最大4500kg
• - 高度900km・軌道傾斜角60°の中軌道：最大2000kg

推進システムには、旧ソ連がN-1Fロケット用に開発した高性能な液体燃料エンジン、NK-33およびNK-43を採用する予定でした。これらのエンジンは、高い信頼性と性能を持つことで知られています。さらに、K-1システム全体は、計画通りであれば最大100回の再使用に耐えうる設計となっていました。これは、当時としては非常に野心的な再利用目標であり、宇宙輸送コストの劇的な削減に貢献することが期待されていました。

NASA COTS計画への選定

K-1プロジェクトにとって大きな転機となったのは、2006年8月18日にNASAが発表した商業軌道輸送サービス（Commercial Orbital Transportation Services, COTS）計画での選定でした。COTS計画は、国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送および将来的なクルー輸送を民間の宇宙輸送サービスに委託することを目的としたプログラムです。NASAは、K-1を開発するロケットプレーン・キスラー社を、現在ISSへの商業補給ミッションを担っているSpaceX社のドラゴン宇宙船開発プロジェクトと共に、COTS計画の参加企業として選びました。これは、K-1の技術と計画に対するNASAからの高い評価を示すものであり、プロジェクトの実現に向けた強力な追い風となるはずでした。

計画の挫折と終焉

しかし、COTS計画への選定にもかかわらず、ロケットプレーン・キスラー社は、K-1の開発を進めるために必要な追加の資金調達に苦慮しました。宇宙開発は巨額の初期投資を必要とする事業であり、民間企業にとっては資金の継続的な確保が不可欠です。同社は資金繰りに行き詰まり、開発計画は遅滞しました。これを受け、NASAは2007年10月18日、ロケットプレーン・キスラー社とのCOTS契約を打ち切ることを発表しました。NASAは同社に対して総額2億680万ドルの予算を割り当てていましたが、契約打ち切りまでに実際に支払われたのは3210万ドルに留まりました。資金調達に失敗し、主要な契約を失ったロケットプレーン・キスラー社は、経営を立て直すことができませんでした。最終的に、同社は2010年にアメリカ連邦破産法第7章（Chapter 7）の適用を受け、清算手続きに入り倒産しました。これにより、K-1ロケットの開発計画は完全に終焉を迎えました。

想定されていたミッション

K-1ロケットは、多様な宇宙ミッションに対応できるよう多目的設計がされていました。具体的には、以下のような用途が想定されていました。

低地球軌道（LEO）への様々なペイロードの輸送
K-1アクティブ・ディスペンサーと呼ばれる装置を用いた、より遠方の高エネルギー軌道へのペイロード投入
再使用技術や関連システムの実証を目的とした技術実証飛行
微小重力環境を利用した科学実験や製造のためのミッション
商業顧客向けの物資輸送および宇宙空間での補給サービス
国際宇宙ステーションの軌道維持や高度上昇を支援するリブースト・サービス

これらの想定ミッションリストは、K-1が単なる打ち上げロケットにとどまらず、将来の宇宙利用を見据えた多機能な宇宙輸送システムとして構想されていたことを示しています。しかし、計画の挫折により、これらのミッションが実現することは叶いませんでした。

結び

K-1ロケットは、民間主導による完全再使用型宇宙輸送システムの実現を目指した意欲的なプロジェクトでした。アポロ計画の経験を持つエンジニアリングチーム、旧ソ連製の高性能エンジン採用、そしてNASAのCOTS計画への選定など、成功の可能性を秘めていましたが、資金調達の壁を乗り越えることができず、計画は頓挫しました。その開発中止と開発会社の倒産は、黎明期の民間宇宙輸送産業における困難を示す一例として記憶されています。今日、SpaceXなどの企業が再使用型ロケットを実現させていますが、K-1はその先駆けとなる構想の一つでした。

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