KTM・クロスボウ

KTM クロスボウ：究極のドライビング体験

KTMクロスボウは、オーストリアのバイクメーカーKTMが、イタリアのレーシングカーコンストラクターであるダラーラ、デザインはキスカデザイン、そしてドイツの自動車メーカーであるアウディといった錚々たる企業との共同開発によって生まれた、異色のスポーツカーです。2007年のジュネーブモーターショーで発表され、翌2008年から販売が開始されました。

そのデザインと性能は、他の追随を許さないものです。ダラーラが手がけたレーシングスペックのカーボンモノコックシャシーは、軽量かつ高剛性を実現。センターロック式のホイールやブレンボ製のブレーキシステム、そして200km/h走行時において193kgものダウンフォースを発生させる空力性能は、まさにレーシングカーそのものです。さらに、コース状況に応じて選択可能な複数のサスペンション設定や、レース専用タイヤなども用意されているなど、サーキット走行を重視した設計がなされています。

パワートレインには、フォルクスワーゲングループ製の1,984cc直噴TFSIターボエンジンを搭載。最高出力240PS、最大トルク310Nmを発揮し、軽量な車体（最軽量モデルで790kg）との組み合わせにより、圧倒的な加速性能を実現しています。エンジンの始動はスマートエントリーに対応していますが、操作方法は一般的な自動車とは異なり、慣れが必要となる点も特徴的です。助手席側にも始動用の差し込み口が設けられています。

コクピットには、KTMのバイクRC8Rから流用されたデジタルメーターが搭載。速度やエンジン回転数に加え、横Gなども表示されるため、ドライバーは走行状況を正確に把握できます。レースモードに切り替えることで、ラップタイムなどのレースに必要な情報も表示可能です。

しかし、クロスボウは公道走行可能なレーシングマシンである反面、スパルタンな装備も特徴です。GT4とGT-XRを除くモデルは、屋根や幌が無く、トランクスペース、エアコン、オーディオなども装備されていません。シートベルトは4点式が標準装備で、シートは固定式、ステアリングとペダルを調整してドライビングポジションを決めるフォーミュラカーと同様のシステムが採用されています。また、サスペンションアームもフォーミュラカーと同様の構造で、万が一のクラッシュ時にアームが折れて衝撃を吸収する設計となっています。

当初KTMは年間生産台数を500台と計画していましたが、予想を上回る受注があったため、グラーツ近郊に新たな工場を建設し、年間1,000台体制へと生産能力を増強しました。日本市場においては、販売代理店が変更され、現在は複数の窓口を通じて販売されています。

2022年には、500馬力の2.5L直列5気筒ターボエンジンを搭載した、プロトタイプレーシングカーを思わせるデザインの「GT-XR」グレードも発表されました。これは、クロスボウの進化を象徴するモデルと言えるでしょう。

グレード展開としては、当初は「ストリート」、「クラブスポーツ」、「スーパーライト」、「GT4」、「ROC」の5グレードが用意されていましたが、2011年モデルからは、ベースモデルから60PSアップした限定車「R」が追加され、「スーパーライト」、「GT4」、「ROC」は廃止されました。その後も「Rロードパッケージ」や快適性を重視した「GT」グレードなどが登場しています。

さらに、2016年にはグループGT4規定に準拠したレーシングカー仕様も販売開始され、日本ではスーパー耐久シリーズなどで活躍しています。2020年にはグループGT2仕様も導入され、その高い競争力と信頼性を証明しています。

数々の賞を受賞し、世界中のモータースポーツファンを魅了するKTMクロスボウ。その究極のドライビング体験は、多くのドライバーにとって忘れられないものとなるでしょう。

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