LINC

LINC (Laboratory Instrument Computer; 実験器具コンピュータ)

LINCは、12ビット、2048ワードのメモリを持つ画期的なコンピュータで、世界初のミニコンピュータかつ個人用コンピュータ（パーソナルコンピュータ）の先駆けとされています。1962年にアメリカ国立衛生研究所（NIH）の依頼で、リンカーン研究所のチャールズ・モルナーとウェスリー・クラークによって設計されました。

LINCの概要

LINCは、当初MITで設計され、「Linc Computer」と呼ばれていましたが、後にディジタル・イクイップメント・コーポレーション（DEC）とSpear Inc.によって製造されました。当時の価格は4万ドル以上と高価でしたが、実験用途に特化した様々な機能が搭載されていました。LINCは、6フィート×20インチのラックに収められ、テープドライブ、小型ディスプレイ、制御パネル、キーボードの4つのボックスで構成されていました。

命令セットは比較的小さめでしたが、実験での使用に便利なインターフェースが備えられていました。特にアナログ入出力は基本設計の一部として組み込まれており、データ収集や制御に役立ちました。LINCの設計はパブリックドメインとして公開され、その後のコンピュータ開発に大きな影響を与えました。

ゴードン・ベルによると、LINCプロジェクトは1961年に始まり、1962年3月に最初の1台が完成しました。DEC製のモジュールと筐体を使用して、合計50台が生産され、その多くはリンカーン研究所で組み立てられました。最初のLINCには、2つのオシロスコープが表示装置として備えられていました。

制御パネル

LINCの制御パネルは、単なるステップ実行機能だけでなく、強力なデバッガとしても機能しました。プログラムカウンタが特定の値になったり、指定したアドレスにアクセスした際に実行を停止させることができました。シングルステップ実行や停止からの復帰も自動的に繰り返すことができ、その速度はアナログノブとセレクトスイッチで調整可能でした。この機能により、プログラムの実行を低速から徐々に加速させることができ、コンピュータの速度を体感的に理解することができました。

アナログノブは、マウスのような入力デバイスとしても使用され、ディスプレイでのグラフの拡大縮小やカーソルの移動などの制御に利用されました。

LINCtape

LINCの最も特徴的な機能の一つが、LINCtapeと呼ばれる磁気テープ装置です。これはオプションではなく基本スペックに含まれており、オペレーティングシステムはLINCtapeに依存していました。LINCtapeは、今日のフロッピーディスクに似た役割を果たしましたが、シーク速度が非常に遅いという特徴がありました。当時の大型コンピュータの磁気テープ装置とは異なり、LINCtapeは小型で高速なデバイスであり、約400Kの容量を持っていました。固定フォーマットで個別書き換えが可能であり、1分足らずで端から端まで読み取ることができました。ファイルシステムとしても使用され、6文字のファイル名でソースファイルと実行ファイルを同じ名前で格納できました。

LINCは、標準で1024×12ビットワードのコアメモリしか持っておらず、LINCtapeへの頻繁なスワップアウトが発生しました。DECは後にDECtapeの特許を取得しましたが、裁判で無効とされました。LINCtapeは非常に信頼性が高く、フロッピーディスクよりも信頼できました。データはテープの幅方向に2箇所にコピーして記録され、冗長性も備えていました。テープはキャプスタンがなく、リールのモーターで直接制御され、高速な巻き戻しなどはなく、常に高速回転で読み書きしていました。また、内蔵スピーカーでテープの内容を音として再生することもできました。

キーボード

LINCのキーボードは、Soroban Engineering社製で、各キーにロック式ソレノイドが使われていました。キーを押すと、LINCは全キーをロックし、押されたキーをハードウェアレジスタに読み取り、プログラムがレジスタを読み取った後にロックを解除していました。この仕組みにより、キー入力が非常に遅く、キーロールオーバーができませんでした。

ディスプレイ

LINCは、12ビットワードを4×6ピクセルのドットマトリックスとしてディスプレイに高速表示し、ちらつきのないテキスト表示を実現しました。標準表示ルーチンは4×6ピクセルの文字を表示するもので、粗く見にくいものでした。ディスプレイには、テクトロニクス製のオシロスコープが使用されました。

LINC-8とPDP-12

ゴードン・ベルによれば、LINCの設計はDECのPDP-4やPDP-5などの開発に影響を与えました。その後、DECはLINCとの互換性を持たせたLINC-8を開発し、さらにPDP-8/IをベースにLINCの要素も組み込んだPDP-12を開発しました。LINC-8はPDP-8とLINCを組み合わせたもので、PDP-12はLINCの後継機として最も広く使われましたが、根本的にはLINCとPDP-8を無理やり結合したアーキテクチャでした。例えば、LINCにはオーバーフロービットがありましたが、PDP-12では割り込み時にこのビットをセーブ/リストアする機能がありませんでした。

MINC-11

DECのPDP-11/03はMINC-11と呼ばれ、実験用入出力モジュールを実装できました。プログラミング言語としては、MINC BASICが提供されました。MINCは「Multi-Instrument Computer」の略で、LINCを意識した命名でしたが、LINCとの互換性やアーキテクチャ上の関係はありません。

まとめ

LINCは、世界初のミニコンピュータとして、またパーソナルコンピュータの先駆けとして、その後のコンピュータ開発に大きな影響を与えた画期的なマシンです。実験用途に特化した設計と、ユニークな磁気テープ装置LINCtapeを搭載したことで、当時のコンピュータとは一線を画す存在でした。

脚注

The Last LINC
Lights Out for Last LINC
LINC Description
PDP-12 User Manual
Oral history interview with Wesley Clark
LINC documentation at bitsavers.org

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