LTT 9779

LTT 9779(Uúba)とその惑星 LTT 9779 b(Cuancoá)



恒星 LTT 9779(Uúba)



LTT 9779は、地球から見てちょうこくしつ座の方向に位置する恒星で、太陽からの距離は約264光年です。観測される見かけの明るさは9.8等級とされています。この星は、質量半径が私たちの太陽とほぼ同じであることから「太陽型星」に分類されます。しかし、光球面の実効温度は太陽よりも約300度低く、スペクトル分類ではG7 V型とされています。また、太陽と比較して金属元素の含有量が豊富で、その量は約1.8倍と推定されています。この恒星の齢については、およそ20億とする推定がある一方で、彩層からの光の輝線を基にした分析では50億とする説もあり、その活動は比較的穏やかであると考えられています。これらの特徴から、LTT 9779は、活動的でない、やや金属元素が過剰な「ソーラーアナログ」、すなわち太陽に似た性質を持つがいくつかの点で異なる恒星として位置づけられています。

惑星系と LTT 9779 b(Cuancoá)



LTT 9779の周りには、一つの太陽系外惑星が存在することが確認されており、当初LTT 9779 bと名付けられました。この惑星の発見は、2020にトランジット法を用いた宇宙望遠鏡TESSによって行われました。TESSは、LTT 9779の手前を惑星が通過する際に生じるわずかな減光を捉えました。その後、ケック天文台やセロ・トロロ汎米天文台の望遠鏡、そしてHARPS分光器などによる精密な追観測によって、この減光が確かに惑星によるものであることが確認され、その存在が確定しました。

惑星LTT 9779 bは、母星であるLTT 9779のごく近くを公転しており、その公転周期はわずか約19時間です。これは、軌道半径が地球と太陽の間の距離のたった60分の1という、恒星から極めて近い位置にあることを意味します。この惑星の物理的サイズは、半径が地球の約4.6倍、質量が約29倍と測定されており、太陽系の海王星に似たサイズのガス惑星であることがわかっています。

LTT 9779 bの発見が天文学界に大きな衝撃を与えたのは、その位置にあります。恒星の極めて近傍、特に公転周期が数以内の領域には、木星のような巨大ガス惑星ホット・ジュピター)は見つかっていますが、海王星のようなサイズのガス惑星はほとんど存在しないと考えられてきました。この領域は、なぜか海王星型惑星が「砂漠」のように存在しないことから「海王星砂漠」と呼ばれ、惑星系の形成や進化に関する理論における重要な概念の一つでした。しかし、LTT 9779 bは、この「海王星砂漠」で初めて発見された海王星型惑星であり、これまでの惑星形成論に再考を促す、極めて稀有な事例となりました。

母星に非常に近い軌道を周回しているため、LTT 9779 bの表面温度は極めて高く、推定で摂氏約1,700度(2,000 K程度)にも達すると見られています。この超高温かつ海王星型という特異な組み合わせから、この惑星は「極高温の海王星(ultra-hot Neptune)」というニックネームで呼ばれるようになりました。なぜこのような惑星が恒星のすぐ近くに存在できるのか、その形成メカニズムについてはまだ議論の途中です。一つの仮説として、より遠い場所で形成された海王星型惑星が内側に移動してきた、あるいは、最初はホット・ジュピターのような大きな惑星として形成された後、母星からの強い放射によって外層大気が剥ぎ取られ、現在の姿になった、などが考えられています。

名称:Uúba と Cuancoá



LTT 9779とLTT 9779 bは、国際天文学連合(IAU)が主催した「太陽系外惑星命名キャンペーン2022(NameExoWorlds 2022)」において、公募による命名対象となる惑星系の一つに選ばれました。このキャンペーンは、IAUが国連の「持続可能な発展のための国際基礎科学(IYBSSD2022)」に貢献する活動として企画されたものです。世界中から寄せられた候補の中から選考が進められ、20236月、IAUから最終的な名称が正式に発表されました。恒星LTT 9779は「Uúba」、惑星LTT 9779 bは「Cuancoá」と命名されることになりました。

これらの名称は、南米コロンビアの先住民族であるウワ族の言葉であるウワ語に由来しています。「Uúba」はウワ語で「星」を意味する言葉であり、「種」や「目」といった意味も含まれます。「Cuancoá」は、ウワ族の文化において「の出前に沈む朝の星」を表す言葉から取られました。このように、科学的な発見であるこれらの天体は、地球上の豊かな文化に根ざした名前を与えられ、天文学と人文科学を結びつける事例となりました。

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