M1 76mm戦車砲

M1 76mm戦車砲

M1 76mm戦車砲は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で開発・運用された戦車砲であり、M4中戦車などの主砲として採用されました。

開発の経緯

1942年、アメリカ陸軍はトーチ作戦でドイツ軍の重装甲戦車と対峙し、M4中戦車の主砲強化の必要性を痛感しました。当初、M5 3インチ対戦車砲の搭載が検討されましたが、重量がネックとなり、より軽量な戦車砲の開発が決定されました。

こうして開発されたのがM1 76mm戦車砲です。M3 75mm砲と同様の装填部を持ちながら、76mm砲弾を使用できる新しい薬室と砲身を備えていました。試作モデルの評価試験を経て、1942年8月には76mm戦車砲 M1として制式化され、M4中戦車への搭載が進められました。

メートル法表記の理由

M1 76mm戦車砲の口径は実際には3インチ（約76.2mm）であり、ヤード・ポンド法に基づけば「3 inch gun M1」と命名されるはずでした。しかし、当時のアメリカ軍の主力対戦車砲であるM5 3インチ砲と砲弾の互換性がなかったため、戦線での混乱を避ける目的で、あえてメートル法表記の「M1 76mm戦車砲」と命名されました。

技術的な問題点

M1 76mm戦車砲は、当初から様々な問題を抱えていました。

砲口発射炎: 発射時の爆風や発射炎が砲手の視界を妨げるため、マズルブレーキが開発されましたが、十分な供給には至りませんでした。
榴弾の性能: M1 76mm砲用の榴弾は、従来のM3 75mm砲用の榴弾に比べて爆薬量が少なく、威力が劣っていました。
発煙弾の性能: M1 76mm砲用の発煙弾は煙幕を張る機能しかなく、敵を直接攻撃できる白リン発煙弾を使用するために、75mm砲搭載のM4をあえて残す部隊もありました。
砲弾携行数: 76mm砲弾は75mm砲弾よりも大きいため、M4中戦車の携行弾薬数が減少しました。

実戦投入と評価

M1 76mm戦車砲は、1944年前半にM18ヘルキャット駆逐戦車の主砲として初めて実戦投入されました。しかし、ドイツ軍の重戦車やパンター中戦車に対しては、十分な装甲貫徹力とは言えず、M18の生産数は削減されました。

M4中戦車への搭載も進められましたが、上記の技術的な問題点から、戦車部隊の指揮官からは懐疑的な意見も出ていました。ノルマンディー上陸作戦にはほとんど投入されず、その後のフランス戦線でようやく投入されるようになりました。

第二次世界大戦後の運用

朝鮮戦争では、アメリカ軍のM4A3E8が北朝鮮軍のT-34/85と交戦し、一定の戦果を挙げました。また、余剰化した75mm砲搭載のM4を76mm砲搭載に改造する計画も実施され、一部は輸出されました。

イスラエル国防軍は、エジプト軍やシリア軍のT-34/85に対抗するため、フランスから76mm砲搭載のM4A1を大量に輸入し、「M1スーパーシャーマン」と呼称しました。M1スーパーシャーマンは、第二次中東戦争などで活躍しました。

形式

T1: 試作型
M1: 初期量産モデル
M1A1: 駐退複座量を増やした改良型
M1A1C: M1A1に砲口マズルブレーキを装着した改良型
M1A2: M1A1Cのライフリング・ピッチを変更した改良型

搭載車両

M18駆逐戦車
M4A1(76)W
M4A2(76)W
M4A3(76)W
T23中戦車

M1 76mm戦車砲は、第二次世界大戦においてアメリカ軍の戦力強化に貢献した一方で、様々な課題も残した戦車砲でした。

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