スーパーシャーマン

スーパーシャーマン：イスラエルの改造戦車

スーパーシャーマンは、第二次世界大戦後にイスラエル国防軍（IDF）がアメリカ製のM4シャーマン戦車を独自に改良した一連の戦車の通称です。1950年代から1980年代にかけて、M1/M50/M51などの各型が運用されました。本記事では、これらの車両を中心に、イスラエルにおけるM4シャーマンとその派生型の運用について解説します。

M4シャーマンの導入

第二次世界大戦後、イスラエル建国を控えたユダヤ人勢力は、周辺アラブ諸国との紛争に備え、軍備の増強を急務としていました。しかし、武器の輸入が制限されていたため、戦車の調達は困難を極めました。

そこで、ユダヤ人組織ハガナーは、イギリス軍からM4シャーマンとクロムウェル巡航戦車を盗み出すという大胆な作戦を実行します。これらの戦車は、第一次中東戦争で貴重な戦力となりました。その後、イスラエル国防軍は世界中からスクラップ同然の中古M4シャーマンをかき集め、砲身の穴埋めや75mm砲への換装などの改修を施し、戦力として再生させました。第一次中東戦争後、イスラエルはM4シャーマンを正式に輸入し、機甲部隊の中核として運用を開始しました。

M4シャーマンは、その高い機械的信頼性や部品の互換性、砂漠地帯での運用適性から、イスラエル軍にとって不可欠な戦力となりました。しかし、初期のM4シャーマンは75mm砲を搭載しており、アラブ諸国が導入したソ連製戦車に対して火力不足が問題となりました。また、装甲防御力の強化も急務となりましたが、重量増加を避けるため、火力強化に重点を置いた改修が進められることになります。

M1スーパーシャーマン

1956年頃、アラブ諸国の主力戦車T-34/85に対抗するため、M4シャーマンの火力強化が図られました。アメリカからフランスに供与されたM4A1（76）W後期型と少数のM4A3（76）Wが導入され、76mm砲を搭載したこれらの車両は、T-34/85に対して十分な威力を発揮しました。これらの76mm砲搭載車は、75mm砲搭載車と区別するため「M1スーパーシャーマン」と呼ばれるようになりました。

M1スーパーシャーマンの一部は、1960年代にHVSSサスペンションと幅広履帯に換装され、1970年代にはカミンズ製ディーゼルエンジンに換装されました。これらの改修により、M1スーパーシャーマンは第四次中東戦争でも特殊用途に使用されました。

M50スーパーシャーマン

M1スーパーシャーマンの導入と並行して、75mm砲搭載車の火力強化も検討されました。フランスのAMX-13軽戦車に搭載されていた75mm戦車砲CN-75-50の搭載が決定され、M50スーパーシャーマンが誕生しました。CN-75-50は、パンター中戦車の7.5 cm KwK 42 L/70戦車砲を改良したもので、75mm砲ながら高い威力を発揮しました。

M50スーパーシャーマンは、オリジナルの砲塔を延長し、CN-75-50砲を搭載できるように改修されました。ベース車体はM4A4が多かったものの、M4A1やM4ハイブリッド車体も使用されました。エンジンはコンチネンタル製ガソリンエンジンが基本でしたが、1960年代にはHVSSサスペンションやカミンズ製ディーゼルエンジンへの換装も行われました。

M50スーパーシャーマンは、1956年の第二次中東戦争で実戦投入され、エジプト軍のAMX-13などと交戦しました。また、レバノン内戦以降は南レバノン軍などに供給されました。

M51スーパーシャーマン

1960年頃、アラブ諸国が導入を進めていたIS-3やT-55戦車に対抗するため、より強力な105mm砲の導入が検討されました。フランスがAMX-30用に開発したCN-105-F1砲が候補となり、イスラエルとフランスの共同研究の結果、砲身を短縮し、マズルブレーキを装着することで、M4シャーマンへの搭載が可能となりました。

1962年、CN-105-F1砲を搭載したM51スーパーシャーマンが誕生しました。車体はM4A1鋳造後期型が使用され、砲塔は砲身との重量バランスを取るために後部が延長されました。M51スーパーシャーマンは、1967年の第三次中東戦争でセンチュリオンやM48パットンと遜色ない能力を発揮し、エジプト軍機甲部隊に対して圧倒的な戦果を挙げました。

M51スーパーシャーマンは、生産時期によって細部に違いが見られ、いくつかの型式に分類されています。

Degem Alef：最初の量産型。ガソリンエンジンを搭載。
Degem Beth：カミンズ製ディーゼルエンジンに換装された型。
Degem Gimel：ルーバー追加やトラベリングロック強化などの改修を受けた型。
Degem Dalet：排気管をエンジンデッキ上に移設した型。迫撃砲を搭載した車両も存在。

M51スーパーシャーマンは、1980年代にメルカバ戦車の導入が進むにつれて徐々に退役し、一部はチリ陸軍に売却されました。

その他の派生型

M4シャーマンは、様々な特殊車両のベースとしても活用されました。イスラエルでは、アメリカ・イギリスが開発した車両の導入に加え、独自の改造を施した車両も開発・運用されました。

M32戦車回収車
M10アキリーズ駆逐戦車
M7B1プリースト自走榴弾砲
シャーマン・クラブ（地雷処理戦車）
M50 155mm自走榴弾砲
ソルタムL33 155mm自走榴弾砲
マクマト 160mm自走迫撃砲
シャーマンMRL（多連装ロケット砲搭載車）
キルション（対レーダー車両）
アンビュタンク（装甲救急車）
ヤール観測戦車
モンスター標的戦車
* トレイルブレイザー戦車回収車

輸出型

M50スーパーシャーマンの一部は、レバノン内戦時にレバノン軍団や南レバノン軍に供与され、装甲兵員輸送車に改造された車両も存在します。また、チリ陸軍に売却されたM50/M51スーパーシャーマンは、60mm高速砲を搭載するなどの改良を受け、M60として運用されました。

まとめ

スーパーシャーマンは、イスラエル国防軍の機甲戦力の中核として長年にわたり活躍し、数々の戦場でその性能を発揮しました。独自の改造が施されたこれらの戦車は、イスラエルの戦車開発の歴史において重要な役割を果たしました。

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