M6トラクター

M6高速牽引車

M6高速牽引車は、アメリカで開発された重砲牽引を目的とした大型の砲兵トラクターです。第二次世界大戦から朝鮮戦争にかけてアメリカ軍で使用されました。

概要

アメリカ軍は第一次世界大戦の経験から、陸上戦力の機動力向上のために砲兵の機動力を高める必要性を認識しました。しかし、戦間期の軍縮により開発は停滞していました。第二次世界大戦の勃発により軍備拡張が急務となり、大口径砲の重量が増加したため、牽引砲の移動手段を馬から砲牽引車に移行する必要が生じ、高速牽引車の開発が求められました。

M6は、7、13、18、38トンの車重が必要とされた高速牽引車の中で、最大の能力を持つものとして開発されました。特に、アメリカ陸軍が保有する最大の口径を持つM1 240mm榴弾砲や、最大重量を持つM1 8インチ砲の牽引を想定していました。

M6は1944年に制式化されましたが、前線部隊への配備は同年末から1945年初頭となり、第二次世界大戦での運用は短期間に終わりました。戦後も使用され、朝鮮戦争にも投入されましたが、より高性能なM8高速牽引車の開発や、アメリカ軍における240mm榴弾砲の運用終了に伴い、1960年までに退役しました。

開発・生産

M6の開発は、1クラス下の18トン砲兵牽引車であるM4高速牽引車の試作車両T9E1の設計を基に行われました。そのため、レイアウトやデザインはM4高速牽引車と類似しており、M4をそのまま拡大したような外観となっています。走行装置は、片側3組のボギー式サスペンションを持つ6個の転輪と接地式の誘導輪を持つM4と同様の方式で、エンジンもM4に搭載されたものを2基結合したものが採用されました。

1943年6月には、T22とT23の2種類の試作車が完成しました。T22は重砲牽引用に車体後部区画に第五輪と呼ばれる結合式牽引装置を持つセミトレーラー方式で、T23は大口径高射砲牽引用にM4高速牽引車と同様に車体後部区画に弾薬庫を持つ構成でした。最終的に、重砲牽引時には運搬台車を用いる通常の方式に変更されたため、T23に統合され、1943年6月に「38t HSP M6」として制式化されました。生産はアリス・チャルマーズ社が担当し、1944年2月から1945年8月にかけて1,235両が生産されました。

大戦後には、牽引する砲の分解・組立作業を補助するため、またM6を工兵用の重機として使用するため、車体後部に搭載する20トン回転式クレーンおよび掘削バケットがT9として開発されました。ミルウォーキー・エクスカベーター社が試作を担当し、1947年3月に承認、T9SとしてM6に搭載した最初の試作機が1947年10月に、試作2号機が1948年初頭に完成し、アバディーン試験場でテストが行われましたが、制式採用には至りませんでした。

運用

M6は1944年末より欧州戦線に配備され、各種重砲の牽引に使用されました。しかし、実戦配備が遅れたため、最も必要とされていたイタリア戦線やノルマンディー上陸作戦には間に合わず、本来M6が牽引する予定であった重砲は、主に戦車車体を改造した牽引車によって牽引されました。太平洋戦線にも配備されましたが、これらの車両はハワイでの訓練中に終戦を迎え、実戦には参加しませんでした。

M6は朝鮮戦争でも使用されましたが、1960年までに全車両が退役しました。その後、少数の車両が民間に払い下げられ、超重量物牽引用のトラクターとして使用されました。

アメリカ軍以外では牽引対象とする砲がほとんど使用されなかったため、M6はアメリカ軍以外には供給されず、戦後の同盟国への供与も行われていません。

特徴

M6は、M1 240mm榴弾砲、M1 8インチ砲、M1 120mm高射砲の牽引に使用され、戦後はM1/M2(M115) 203mm榴弾砲の牽引にも用いられました。牽引力は最大60,000ポンド（約27.2トン）で、車体後部下には最大牽引力60,000ポンドのウィンチを装備しています。

車体構造はM4高速牽引車と同様に、前部を乗員室、中央部を機関室、後部を弾薬庫とした構成となっています。乗員室は半密閉式で、最前部に操縦席と横掛けの座席があり、その後方に横掛けの座席が前後対向式に2列備えられています。弾薬庫には、240mm砲弾と装薬を20発、8インチ砲と4.7インチ高射砲ならば砲弾と装薬を24発搭載可能でした。

M6でM1 240mm砲とM1 8インチ砲を牽引する場合、砲を砲身部と砲架および砲脚部に分割し、2両一組で1門を輸送しました。砲の分解・搭載作業にはM2 20トントラッククレーンが必要で、2時間程度の時間と多数の人員を要しました。

試作型のT22では、砲を牽引する際に車体後部区画に第五輪を介して車輪付きの被牽引架台に載せた砲身もしくは砲架および砲脚を結合して牽引するセミトレーラー方式でしたが、実用型のM6では分割した砲をそれぞれ3軸6輪の運搬台車に搭載し、台車を連結具を介して車体後面のピントルフックに連結して牽引しました。

その他、M6で牽引できる2軸4輪の弾薬輸送用トレーラ（積載量8トン）があり、使用時には1軸2輪の砲架車を介して牽引しました。トレーラは2両を連結しての牽引も想定されていました。

アメリカ軍の開発した他の高速牽引車と同様に、乗員室の天面には自衛用に全周旋回可能な円周式機銃架があり、M49CリングマウントにM2 12.7mm機関銃を装備し、弾薬500発をキャビン内に搭載しました。

各型

T22: 重砲牽引型の試作車。
T23: 高射砲牽引型の試作車。
M6: T23を制式化した量産型。1,235両生産。
T9S: T22/M6に吊下げ能力20トンの回転式クレーンアタッチメントを搭載した重工作機械型の試作車。試作2両のみ。

関連項目

砲兵トラクター
M5 高速牽引車
M4 高速牽引車
M8 高速牽引車

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