M62 (天体)

M62（NGC 6266）

へびつかい座に輝く球状星団。カタログ上の名称はM62、あるいはNGC 6266として知られています。この星団は、一般的な球状星団と比較して顕著な特徴を複数持っています。

特徴

M62は、球状星団としては珍しく、高い扁平率を持ち、全体として均整の取れていない歪んだ形状をしています。この不均一な形は、天の川銀河の中心部から比較的近い約6,100光年という距離にあることが原因と考えられています。銀河中心からの強い潮汐力が、星団の構造に影響を及ぼしていると推測されています。

また、M62の中心部には非常に多くの星が密集しています。過去にM15、M30、M70といった他の球状星団で発生したように、この星団でも中心核が崩壊した可能性が指摘されています。2003年にX線天文衛星チャンドラによって行われた観測では、M62の中心領域で多数のX線連星が発見されました。これらのX線連星は、球状星団内部で恒星同士が接近したり衝突したりといった力学的な相互作用を経て形成されると考えられています。M62で多くのX線連星が見つかったことは、この星団の中心部で活発な恒星間の相互作用が頻繁に起きている可能性を示唆しています。

観測時の見え方

双眼鏡を用いてM62を観測すると、その外縁部が急速に淡くなるため、まるで彗星のようにも見えます。明るさはさそり座にあるM80とほぼ同程度です。口径20cmクラスの望遠鏡を使っても、見え方は劇的に改善されないことが多いとされています。口径30cm程度の望遠鏡になると、多数の微かな星がボール状に集まっている様子は捉えられますが、中心部は個々の星に分離して見ることが難しいでしょう。しかし、口径40cmクラスの大型望遠鏡を用いて高い倍率で観測すると、その密集した中心部も個々の星として分解し、より詳細な構造を捉えることが可能になります。

観測史

M62は、フランスの天文学者シャルル・メシエによって1771年6月7日に発見されました。しかし、メシエがその正確な位置を測定し、自身のカタログに記載したのは1779年6月4日のことでした。メシエ自身は、M62について「非常に美しい星雲で、いくぶん彗星に似ている。中心はよく輝き、淡い光に囲まれている」と記録しています。

メシエカタログに掲載された他の多くの球状星団と同様に、M62もまた、イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって初めて個々の星の集まりとして分解されて観測されました。ウィリアム・ハーシェルはM62を見て、「星に分解される対象だ。M3の小型版のようだ」と記しています。ウィリアム・ハーシェルの息子であるジョン・ハーシェルも観測を行い、1847年にはM62が高い扁平率を持っていることを記録に残しました。また、ウィリアム・ヘンリー・スミスはM62を「大きくて美しい、星に分解可能な星雲。中心部が明るく、微かな星は中心に向かって急に輝きを増している」と描写しています。

これらの観測記録から、M62が発見当初からその特異な見かけや構造で天文学者の関心を集めていたことがわかります。特に扁平率の高さや中心部の密集といった特徴は、後の研究によってその物理的な原因が解明されていく上で重要な手がかりとなりました。

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