M7 (戦車)

M7中戦車：幻の軽戦車

M7中戦車は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で開発された戦車です。当初は軽戦車として開発されましたが、最終的には中戦車として分類されることになりました。しかし、その性能から量産には至らず、ごく少数が生産されたのみで終わった、いわば「幻の戦車」です。

開発経緯

1940年代後半、アメリカ陸軍機甲軍は、当時生産されていたM2軽戦車やM3軽戦車の後継となる軽戦車の開発を計画しました。M2/M3軽戦車は、その性能に一定の評価はあったものの、エンジン配置の問題から車高が高く、戦闘室が分断されるという欠点がありました。また、形状が複雑で生産性が低いという問題点も抱えていました。そこで、これらの欠点を是正することを目標に新型軽戦車の開発が開始されました。

1941年1月、ロック・アイランド工廠でT7軽戦車（Light Tank T7）として開発が始まりました。基本原型であるT7のモックアップを基に、製造方法やエンジンが異なるT7E1からT7E4が設計され、試験が行われました。その結果、1941年12月にT7E2の採用が決定されました。

当初、主砲には37mm砲が予定されていましたが、北アフリカ戦線での戦訓から、37mm砲ではドイツ軍戦車に対して威力不足であることが判明しました。そのため、試作車製作中に主砲は57mm T2（イギリスのQF 6 pounder MkIII 57mm戦車砲のライセンス生産版）に変更されることになりました。しかし、その後「57mm砲であってもドイツ軍戦車に対しては威力不足であり、陣地攻撃用の砲としても不十分」と判断されたため、さらにM4中戦車と同じM3 75mm戦車砲を搭載するために砲塔が再設計されました。また、M3軽戦車の装甲が「全く不十分」とされたため、装甲防御も見直され、最終的には当初14tだった重量は25tにまで増加しました。1942年8月に最終試作車が完成し、軽戦車から中戦車へと分類が変更され、M7中戦車（Medium Tank M7）として制式化されました。

生産中止

M7はインターナショナル・ハーベスター社に対し3,000両が発注され、1942年12月から生産が開始されました。しかし、機甲軍が「M4中戦車と比較して特に優れている点が無く、2種類の中戦車を並行して装備するのは生産・運用の現場を混乱させるだけである」として配備に反対しました。陸軍管理局も同様の見解を示したため、1943年2月に発注が取り消され、既に受注された30両のうち7両（一説には13両）が生産されたのみで生産は終了しました。軍に引き渡された車両もいくつかのテストに用いられたのみに終わり、実戦部隊への配備はなされませんでした。

性能

中戦車となってしまったものの、M7は基本的には軽戦車であり、当初から中戦車として開発され既に量産が開始されていたM4中戦車と比較すると装甲が薄く、主砲に対して車体が小型過ぎて車内レイアウトその他に余裕のない車両でした。軽戦車としては車重に比べ懸架装置を始めとした走行装置の性能とエンジンの出力が不足しており、機動力に欠けていました。機動力不足を補おうとフォード V8エンジンを搭載する改良型、M7E1の開発が行われ、さらに走行装置を改善した改良型が計画されましたが、生産発注の取消に従い開発は中止されました。

設計思想

アメリカ陸軍ではM7の設計を踏まえて「主武装を75mm砲とし、機動性を第1とし装甲防御力は次善とする」とした新たな軽戦車の開発を行い、これがT24（後のM24軽戦車）として完成しています。

現存車両

少数生産されたM7は戦後順次処分されましたが、数両が現存し、1両がメリーランド州アバディーンのアメリカ陸軍兵器博物館に展示されています。

構成

M7中戦車は鋳造製の砲塔と車体を持ち、砲塔、車体共に良好な避弾経始を持つ。全体の構成は当時並行して開発されていたT20中戦車に類似しています。乗員は車長（無線手兼任）、砲手、装填手、操縦手、副操縦手の5名です。

車体は前部に操縦席、中央部に戦闘室（砲塔）を配し後部に機関室という標準的なもので、車体上部は鋳造による一体成型です。前部左側に操縦手席、変速機を挟んで右側に副操縦手席があり、片開き式のハッチの天面に潜望鏡を備える他、前面には小型の開閉式バイザーブロックがあります。車体前面右側には車体機銃としてM1919A4 7.62mm機関銃のマウントを装備し、副操縦手が銃手を兼任します。戦闘室の4隅にはベンチレータがそれぞれ装備されています。車体前面下部中央部はボルトで留められて取り外せるようになっており、変速機の整備はこの部分を取り外して行う。鋳造の車体上面後部は車体下部に大きく覆いかぶさるような形になっており、排気管はこの内側に配置されていました。

エンジンはR975C1もしくはEC2ガソリンエンジン（350馬力）、のちにコンチネンタルR975EC2/C1空冷星形9気筒ガソリン（350馬力）で、搭載方法を工夫して車体の全高を抑えています。燃料タンクの容量は522リットル。整地路面における最高速度は50km/h、最大航続距離は160kmでした。

転輪は片側4輪、2個1組のボギー式を2基備え、渦巻スプリングを用いたVVSS（垂直渦巻スプリング式サスペンション）方式でした。前部に起動輪、後部に大型の接地式誘導輪を持ち、上部転輪3個を装備します。走行装置全体の構成はM3／M5軽戦車と同一の構成ですが、スプリングの配置や上部転輪の設置方法が若干異なります。

砲塔はM2／M3戦車で指摘された「高さがあり目立つ割に内部容積が乏しく、狭苦しい」という点を踏まえて全高を抑えた平たいものになっており、油圧旋回式で全周旋回にかかる時間は約15秒です。砲塔部の床は砲塔と共に回転する“砲塔バスケット”方式となっています。車長席は砲塔左側、装填手席は右側にあり、いずれも上面に両開き式のハッチがありますが、車長用展望塔はない。砲手席は車長の前方、砲塔前部左側にあります。車長にはハッチの前後に2基、砲手、装填手には1基の潜望鏡が装備されており、車長用の前部のものと砲手用のものは間接照準器兼用となっています。砲塔後方の張り出し部には無線機が搭載され、車長が操作しました。砲塔後面には雑具箱が装備されています。その他、砲塔側面には空薬莢排出口兼用のガンポートを備え、砲塔上面後部にはベンチレーターが装備されています。

主砲は75mm Gun M3をM47ガンマウントに搭載し、スタビライザーは備えられていません。副武装として主砲同軸にM1919A5 7.62mm機関銃を装備し、他に車長用ハッチの前後にM1919A4機関銃用のマウントが設置されており、前後いずれかに銃架を用いて機関銃を装備できました。

装甲厚は砲塔が前面51mm、防盾63mm、側／後面38mm、上面19mm、車体部が前面38mm、側面31.8mm、後面25mm、上面19mm、底面25-13mmでした。

参考文献

『オスプレイ・ミリタリー・シリーズ 世界の戦車イラストレイテッド　23　M3&M5スチュアート軽戦車 1940‐1945』（ISBN 978-4499228183）著：スティーヴン・ザロガ　訳：武田秀夫　大日本絵画　2003
『グランドパワー 2010年 09月号別冊　M26パーシング　M24チャフィー』（ASIN B003ZTRG4Q）ガリレオ出版　2010

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