M26パーシング

M26パーシング：アメリカの重戦車から中戦車へ

M26パーシングは、第二次世界大戦末期にアメリカ軍がドイツ軍の重戦車に対抗するために開発した重戦車です。当初は重戦車として分類されていましたが、1946年5月に中戦車へと分類が変更されました。この戦車は、アメリカ軍が自ら命名した初の戦車であり、第一次世界大戦で活躍したジョン・パーシング将軍にちなんで名付けられました。

開発の背景

M4シャーマンの後継として開発が進められたM26は、当初、M4の能力ではドイツのティーガー戦車に対抗できないという認識から生まれました。アメリカ軍は、敵戦車への対処は駆逐戦車に任せ、戦車は歩兵支援を目的とするという思想を持っていました。しかし、実際の戦場では、M4はティーガーだけでなく、パンターにも苦戦を強いられ、より強力な戦車が求められるようになりました。

開発の経緯

1943年5月には、M4シャーマンの後継候補としてT20試作型が完成しました。この戦車は、M4A3と同じエンジンを搭載し、足回りはHVSS式サスペンションを採用、主砲には76mm M1系砲を搭載していました。このT20をベースに、90mm砲を搭載したT25E1中戦車と、装甲を強化したT26E1重戦車が試作されました。しかし、陸軍地上軍管理本部（AGF）の妨害により、これらの採用は遅延しました。前線司令官たちは、ティーガーの脅威を認識し、T26E1の量産を強く求めていましたが、AGFはM4の性能を過大評価し、新型戦車の配備に反対し続けました。ところが、ヨーロッパ戦線での戦闘が始まると、M4はパンターにすら苦戦し、大きな損害を出すこととなりました。前線の兵士からの強い要望と、損害の大きさから、軍内部でも批判の声が高まりました。

ヨーロッパ戦線への投入

1944年12月、ドイツ軍がアルデンヌ攻勢を開始した際、アメリカ軍は初めてまとまった数のT26E3を投入しました。当初、ティーガーIIがアメリカ軍防衛線を突破したとされましたが、実際にはパンターが先陣を切り、ティーガーIIは後衛でした。しかし、連合軍兵士の間には「タイガー恐怖症」があり、ティーガーIのようなシルエットの戦車に対して過敏になっていました。この状況を無視できなくなった兵器局は、T26E3の生産数の半分を実戦試験として配備することを提案し、AGFの反対を押し切って、T26E3の投入が決定しました。1945年1月、20両のT26E3が第3機甲師団に実戦配備され、4月にはM26パーシングとして制式化されました。M26は6,000両が発注されましたが、終戦までに完成したのは1,436両に留まり、そのうち310両がヨーロッパに送られましたが、終戦までに部隊配備が間に合ったのはその2/3程度でした。M26は本来、ティーガーIに対抗する目的で開発されましたが、ティーガーIIには火力、装甲共に劣り、機動力はパンターにも劣っていました。

スーパーパーシング

ティーガーIIに対抗するため、長砲身の90mm砲を搭載した"スーパーパーシング"も企画されました。試作車はT26E1の1号車の主砲を換装し、巨大な平衡装置を外部に露出させていました。その後、量産型としてT26E4スーパーパーシングが25両生産され、M26をこのタイプに改修する計画もありましたが、分離式薬莢を使用するT15砲の発射速度が遅いため、終戦とともに計画は中止されました。

実戦での運用

実戦では、1945年2月にエルスドルフ近郊でティーガーの攻撃を受けて1両が損傷しましたが、後に修理されて復帰しました。その2日後には、ティーガーとIV号戦車2両を撃破しました。その後、レマゲン鉄橋の戦いでは歩兵支援を行い、3月6日にはケルン近郊でナースホルン自走砲の攻撃を受けて1両が撃破されましたが、これは大戦中に全損となった唯一のT26E3でした。スーパーパーシングは試作車1両が実戦投入され、増加装甲を施した上で敵重戦車を撃破しましたが、実戦に参加できたのはごく一部でした。

太平洋戦線への投入

M26は沖縄戦にも投入される予定でしたが、間に合わず、終戦まで日本本土上陸作戦のために待機することとなりました。日本軍はM26をM1重戦車と誤認しており、硫黄島の戦いでM1重戦車との交戦報告をしています。

戦後の運用

第二次世界大戦終結後も、M26の生産は1945年10月まで続けられ、総数2,432両が生産されました。1946年5月には中戦車に分類が変更されました。M26は、M4の後継として十分な戦闘力を示しましたが、M4と同じエンジンではパワー不足でした。そのため、エンジンとトランスミッションを換装した発展型であるM46パットンが開発されました。既存のM26も順次M46に改修される予定でしたが、軍縮により一部のみの改修に留まりました。朝鮮戦争では、急遽、M46への改装が中止され、一部がM26A1として改修され、戦場に投入されました。朝鮮戦争では、M26はM46と共にT-34-85を圧倒しましたが、機動力不足や故障が多発したため、前線の兵士からはM4のほうが優れているという声も上がりました。M26は朝鮮戦争終結後、米軍から全車退役しました。

構造

T26/M26シリーズの砲塔は鋳造、車体は鋳造と圧延鋼板の溶接組み立て構造でした。主砲には、50口径90mm砲M3が搭載され、ドイツ軍の重戦車に対抗できる威力を持ちました。砲弾は1,000ヤード（914m）先の30度傾斜した装甲板に対して、APC弾で127mm、HVAP弾で176mmの貫徹力がありました。

バリエーション

M26には様々なバリエーションが存在します。T26は原型車で、T26E1はサスペンションをトーションバー式に変更した試作型です。スーパーパーシングは、主砲を強化した型であり、T26E2は主砲を105mm榴弾砲に変更した突撃戦車型です。M26E1は一体装薬型の長砲身砲に換装した強化試作型で、M26A1は排煙器付きのM3A1 90mm砲を搭載した改良型です。その他、T32重戦車や、T84、T92、T93自走榴弾砲、T12回収戦車など、多数の派生型が存在します。

運用国

M26は主にアメリカで使用されましたが、ベルギー、イタリア、フランスにも供与されました。

登場作品

M26は、様々な漫画、アニメ、ゲーム、小説にも登場しています。これらの作品では、その強力な火力と重厚な装甲が描かれています。

参考文献

M26に関する詳しい情報は、以下の文献に記載されています。

『オスプレイ・ミリタリー・シリーズ 世界の戦車イラストレイテッド』 大日本絵画：刊
『月刊グランドパワー』デルタ出版：刊
American Fighting Vehicle Databas
PATTON-MANIA

関連項目

戦車一覧
重戦車
中戦車
M46パットン

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