M88装甲回収車

M88装甲回収車

M88装甲回収車は、アメリカ合衆国で開発された装甲回収車であり、M48パットンの車体コンポーネントを流用しています。1960年代に開発され、ベトナム戦争に投入された他、改良を受け湾岸戦争やイラク戦争でも運用されました。イラク戦争では、アメリカ軍によるバグダッド占領時にフセイン大統領の銅像を引き倒す映像が世界中に配信されましたが、この時に使用されたのがM88の最新型であるM88A2"ハーキュリーズ"装甲回収車です。

"ハーキュリーズ"(HERCULES)はM88A2のみに使用されるニックネームで、ギリシャ神話に登場する英雄"ヘラクレス"を意味する他、Heavy Equipment Recovery Combat Utility Lifting Extraction Systemのアクロニムでもあります。

概要

M88装甲回収車は、戦車などの装甲戦闘車両が故障や戦闘によって行動不能になった際に、安全な場所まで牽引・回収することを目的としています。また、回収作業だけでなく、現場での応急修理や整備の支援も行います。M88は、その高い機動性と回収能力により、様々な作戦において重要な役割を果たしてきました。

M88/M88A1

M88装甲回収車は1961年にM48パットンの車体コンポーネントを流用し、Bowen McLaughlin York(BMY)社により開発されました。BMY社は後にハースコ社の一部門となりました。最初の量産型であるM88はM48A1/M48A2系列と同じ、出力980馬力のコンチネンタル製AVSI-1790-6Aガソリンエンジンを搭載したバージョンで、1964年まで生産され、アメリカ軍によりベトナム戦争に投入されました。

1977年には改良型のM88A1が開発されました。M88A1はM88のエンジンをM48A3と同系列のコンチネンタル製AVDS-1790-2DRディーゼルエンジンに換装したタイプで、外見上の相違点としては、戦闘室後部右側の張り出し部分がA1では大きくなり、側面にルーバーが追加されている点が挙げられます。M88A1はアメリカ軍に採用された他、各国に輸出され現在も運用されています。

M88/M88A1の回収能力は約56トンで、M48やM60の回収は可能でしたが、アメリカ陸軍に配備されたM1エイブラムス主力戦車、中でも装甲防御力を強化した改良型のM1A1HAやM1A1HC、M1A2に対しては能力不足でした。このため回収能力を抜本的に強化した改良型の開発が1991年に決定しました。

M88A2"ハーキュリーズ"

M88の開発・生産を行っていたハースコ社のBMY部門は、1994年にユナイテッド・ディフェンスの傘下に吸収されました。この結果、M88A2はユナイテッド・ディフェンスの製品として1997年に量産配備が開始されました。

M88A2はエンジンが出力1050馬力のコンチネンタル製AVDS-1790-8CRディーゼルエンジンに換装され、増加装甲板やサイドスカート追加により車体重量が63.5tに増加し、引き揚げ用のブームも強化された角型断面のものに変更されています。M88A2の回収能力は70トンにまで強化され、M1A1やM1A2を運用するアメリカ陸軍、海兵隊の他、エジプトやオーストラリアなど、他のM1エイブラムス導入国でも採用されています。

2005年には、ユナイテッド・ディフェンスはBAE システムズ・ランド・システムズと合併しBAE システムズ・ランド・アンド・アーマメンツとなりました。

採用国

アメリカ合衆国
アメリカ陸軍: 各型合わせて629両
アメリカ海兵隊: 各型合わせて69両。アフガニスタン紛争に派遣された海兵隊のM88A2は、キューポラ周囲への防弾板追加、あるいはM1A1と同型のキューポラへの換装、IED起爆妨害装置の追加装備などが行われ、派遣先のヘルマンド州で海兵隊のM1A1FEPと共に任務に就きました。
M88A1 採用国
オーストリア - 35両。2023年時点で、10両を保有しています。
バーレーン - 4両。
ブラジル - 8両。
エジプト - 221両。エジプト軍はM88A2も採用しています。
ドイツ - 125両。"ベルゲパンツァー1"と呼称され、レオパルト1ベースの回収型である"ベルゲパンツァー2"、レオパルト2ベースの回収型である"ベルゲパンツァー3"と区別されています。
ギリシャ - 95両。
イスラエル - 25両。一部の車両にはキューポラ上への密閉戦闘室"ドッグハウス"の搭載、スラットアーマーの追加装備などが行われています。
ヨルダン - 30両。
レバノン - 35両。
モロッコ - 12両。
オマーン - 2023年時点で、オマーン陸軍が2両を保有しています。
パキスタン - 52両。
ポルトガル - 6両。
サウジアラビア - 78両。
スペイン - 1両。
スーダン - 2両。
中華民国（台湾） - 37両。
タイ - 22両。
チュニジア - 6両。
トルコ - 33両。
M88A2 採用国
オーストラリア: 13両。
エジプト: 87両。エジプト軍はM88A1も採用しています。
イラク: 29両。イラク戦争後の新生イラク軍に配備8両を追加発注。
クウェート: 14両。
バーレーン:4両導入予定。
* 中華民国（台湾）- 2019年7月に契約が発表されました。

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