Mk54 (魚雷)

Mk.54 軽量ハイブリッド魚雷

Mk.54は、アメリカ海軍が主力として運用する対潜水艦用の軽量短魚雷です。この魚雷は「軽量ハイブリッド魚雷（Lightweight Hybrid Torpedo）」、略してLHTとも呼ばれる通り、先行する魚雷の技術を組み合わせることで誕生しました。直径は標準的な324ミリメートル（12.75インチ）であり、現代の対潜水艦戦において重要な役割を担っています。

本魚雷の開発は、レイセオン・インテグレーテッド・ディフェンス・システムズ社とアメリカ海軍が共同で進めたプロジェクトです。開発の背景には、当時使用されていた二種類の軽量短魚雷、すなわちMk.46とMk.50が抱えていた課題がありました。1960年代から使われてきたMk.46は信頼性は高かったものの、沿岸部や比較的浅い海域での対潜能力が十分ではありませんでした。一方、1990年代に登場したMk.50は高性能で、特に深い海域を航行する潜水艦への対処能力に優れていましたが、その技術的な複雑さゆえに製造コストが非常に高価でした。

冷戦が終結し、深深度を主な活動領域とするソ連海軍の潜水艦の脅威が低下するにつれて、アメリカ海軍は浅深度や沿岸海域における対潜戦の重要性をより認識するようになりました。この新たな環境下では、高価なMk.50の深深度向け機関は必須ではなくなり、代わりにMk.46の持つ浅深度での性能不足を克服する必要が生じたのです。また、多数の魚雷を配備するためには、より安価な解決策が求められました。

そこで考案されたのが、Mk.46魚雷のコスト効率の良い機関部と、Mk.50魚雷の先進的なソナー誘導装置を含む高性能な弾頭部を組み合わせて、新たな魚雷を開発する「ハイブリッド」構想でした。この構想に基づき、1993年に軽量ハイブリッド魚雷計画として研究がスタート。1995年には本格的な開発段階へと移行しました。試作と試験を重ね、1999年7月には実地での試験運用が開始され、同年11月に最終的な設計が完成しました。製造はレイセオン社が担当し、2003年4月に単独での受注契約が結ばれ、2004年10月には量産が開始されて各部隊への配備が進められています。

Mk.54の重要な特徴の一つは、開発段階からコスト効率に配慮がなされた点です。特に電子部品においては、民生規格品（COTS: Commercial Off-The-Shelf）を積極的に導入することで、性能を損なうことなく製造コストの抑制が図られています。これにより、大規模な調達と配備が実現しました。

運用面では、多様なプラットフォームからの発射能力を有しています。水上艦艇に搭載される標準的なMk 32 短魚雷発射管や、ロケット推進式の対潜ミサイルであるアスロックシステムからの発射に対応するほか、対潜哨戒機やヘリコプターといった航空機からも投下可能です。さらに、2010年からは水上艦艇の垂直発射システム（VLS）から発射される垂直発射型アスロック（VLA）の弾頭としても運用されており、その汎用性の高さを示しています。

また、航空機からの運用能力をさらに拡大するため、革新的なシステム開発も進行中です。2013年より開発が進められている「高高度対潜兵器能力（HAAWC: High Altitude Anti-Submarine Warfare Weapon Capability）」は、Mk.54魚雷に滑空機材を取り付けることで、航空機が敵の対空兵器の射程圏外となる高高度・長距離から安全に魚雷を投下・誘導することを可能にするものです。

Mk.54はアメリカ海軍だけでなく、多くの同盟・友好国にも採用されています。例えば、オーストラリア海軍は2010年に、既存のMk.46魚雷を更新するため、訓練用を含む約200発のMk.54をFMS（対外有償軍事援助）プログラムで購入しました。インド海軍も、P-8iネプチューン対潜哨戒機の導入に合わせて本魚雷を取得しています。カナダ海軍は2019年に、保有するMk 46 Mod 5A魚雷をMk 54規格にアップグレードする計画が米国防総省によって承認されています。さらに、2020年7月には、ベルギーに対して29本、ドイツに対して64本のMk.54がFMSを通じて輸出されることが発表されるなど、その採用国は広がりを見せています。

Mk.54の主な仕様は以下の通りです。

全長：2.59メートル
直径：324ミリメートル
* 重量：230キログラム

Mk.54軽量ハイブリッド魚雷は、過去の成功した技術を組み合わせ、コスト効率と現代の対潜戦環境への適応を両立させた兵器です。浅深度での高い探知・攻撃能力、多様な発射プラットフォームへの対応、そして国際的な普及実績は、本魚雷が今日の対潜戦における標準的な存在であることを明確に示しています。

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