NEC SX

NEC SXシリーズスーパーコンピュータ：進化の歴史と技術

NECが開発したSXシリーズは、世界で唯一現存するベクトル型スーパーコンピュータシリーズとして知られています。1983年のSX-2の登場以来、地球シミュレータを始めとする様々な大規模計算に貢献し、日本のスーパーコンピュータ技術を牽引してきました。本稿では、SXシリーズの歴史、アーキテクチャ、ソフトウェア、そしてアメリカでのダンピング課税問題まで、多角的に解説します。

SXシリーズの歩み

SXシリーズは、1983年にSX-2とその下位モデルであるSX-1、廉価版のSX-0で幕を開けました。その後、SX-11に相当する最新モデルSX-Aurora TSUBASAに至るまで、着実に進化を遂げています。モデル末尾の数字は世代を表し、アルファベットはサブモデルや改良版、サーバモデル、小型モデルなどを示します（例：SX-2A、SX-3R、SX-4B、SX-6i）。

地球シミュレータの各世代システムにも、SXシリーズが採用されてきました。初代はSX-5、2代目はSX-9/E、3代目はSX-ACE、そして現行の4代目はSX-Aurora TSUBASAがベースとなっています。

各モデルの特徴

SX-2/SX-1/SX-0 (1983年発表)

SXシリーズの最初のモデル。SX-2は世界で初めてGFLOPSを超えたスーパーコンピュータとして、一時代を築きました。SX-1, SX-0はそれぞれ下位モデルと廉価版として提供されました。

SX-3 (1989年発表)

OSをACOS-4ベースからUNIXベースのSUPER-UXに変更。最大4つの演算プロセッサ（AP）構成が可能になり、メモリ共有によるマルチプロセッサシステムを実現しました。複数のサブモデルが存在し、性能は幅広かったです。

SX-4 (1994年発表)

バイポーラ論理LSIからCMOS論理LSIへの移行により、消費電力と発熱を抑制。空冷化を実現し、コストパフォーマンスを向上させました。ノード単位のメモリ共有とノード間の協調動作を可能にしました。

SX-5 (1998年発表)

初代地球シミュレータのCPUをLSI化したモデル。CMOS技術と集積化による高性能化、クロック周波数向上、ベクトル命令パイプラインの増設による性能向上に成功しました。サーバモデルSX-5Sも登場しました。

SX-6 (2001年発表)

地球シミュレータのシングルノードを改良したモデル。ベクトル演算部の高速化（スカラー演算部の倍速）を実現し、デスクサイドモデルSX-6iも登場しました。

SX-7 (2002年発表)

SX-6のCPU数とメモリ容量を拡張したモデル。

SX-8 (2004年発表)

1ノード1モジュール化による高密度実装を実現。ケーブルレス化による省スペース化と性能向上を達成し、デスクサイドモデルSX-8iも登場しました。

SX-8R (2006年発表)

ベクトルプロセッサの演算器を倍増し、性能を大幅に向上させました。

SX-9 (2007年発表)

ペタフロップス時代を見据えたモデル。1チップベクトルプロセッサの採用、性能向上、電力効率向上を実現しました。

SX-ACE (2013年発表)

消費電力と設置面積の大幅な削減、CPUコア性能の向上、データ転送速度の向上を目指して開発されたモデル。マルチコアCPUの採用が大きな特徴です。

SX-Aurora TSUBASA (2017年発表)

PCIeカードへの実装とx86ベースのベクトルホストへの移行、LinuxへのOS変更など、アーキテクチャを刷新したモデル。VE-10、VE-10E、VE-20、VE-30と複数のサブモデルが発表されています。

アーキテクチャ

SXシリーズは、非対称密結合マルチプロセッサ構成です。制御プロセッサ（CP）と演算プロセッサ（AP）から構成され、SX-3以降はCPがUNIXサーバとなり、APの制御、入出力処理の制御に特化しました。APはベクトル演算ユニット（VU）とスカラー演算ユニット（SU）を持ち、ベクトル処理による高速計算を実現しています。パイプライン処理、命令セットの強化、データ転送バスの強化など、世代ごとに様々な高速化技術が投入されてきました。

ソフトウェア

SX-2まではACOS-4ベースのSX-OSを使用していましたが、SX-3以降はUNIXベースのSUPER-UX、そしてSX-Aurora TSUBASAではLinuxに移行しました。SUPER-UXはマルチプロセッサ対応、複数のページサイズ、オーバレイ機能、高度なスケジューリング機能、改良されたファイルシステム、NQSジョブ管理システムなどを備えています。コンパイラもFORTRAN77/90、C言語に対応し、ベクトル化、並列化のための高度な最適化機能が提供されてきました。

アメリカにおけるダンピング課税問題

SXシリーズは、米国でダンピング（不当廉売）とされ、高額な課税を受けました。これは、米国製品に比べて価格が低かったこと、そして米国以外の市場でSXシリーズの販売が好調だったことが原因でした。後に、米国国内でも低価格なスーパーコンピュータの必要性が認識され、この問題は終息に向かいました。2001年にはNECがクレイ社にSXシリーズをOEM供給することで合意しています。

まとめ

NEC SXシリーズは、長年にわたる技術革新と改良を経て、世界最高水準のベクトル型スーパーコンピュータとして発展を遂げてきました。その高い性能と信頼性は、科学技術計算をはじめとする様々な分野で活用され、日本のスーパーコンピュータ技術の進歩に大きく貢献しています。 SX-Aurora TSUBASAへの進化は、新たな技術を取り入れながら、ベクトル型スーパーコンピュータの未来を切り開く挑戦を示しています。

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