NHK UHFテレビ実験局

NHK UHFテレビ実験局とは、日本放送協会が極超短波（UHF帯）を使ったテレビジョン放送の実用化に向けた技術開発や普及を目的に設けた無線局の総称です。これらの実験局や放送試験局は、時代のニーズや技術の進展に応じて、その役割や目的を変遷させてきました。

主な実験目的は以下の通りです。

1960年 - 1963年: UHF帯を活用するための小電力実験
1966年 - 1967年: UHF帯による県域放送実施のための大電力実験
1970年 - 1975年: 大都市部におけるUHFテレビ放送の受信実験（放送大学関連）
2013年 - 2017年: スーパーハイビジョン実用化のためのデジタル実験

UHF帯実験の始まりと小電力サテライト局

テレビ放送が始まった当初、利用されていたのは超短波（VHF帯）でした。しかし、1chから12chまでの限られた帯域では、割り当て可能なチャンネルが最大7局に限られ、兵庫県姫路市周辺や有明海沿岸など、一部地域でチャンネルが不足し、新たな放送局の開設や既存局の中継局設置が困難になる状況が生じていました。また、送信所から離れた地域での難視聴解消のための新たな中継局整備も思うように進まない状態でした。

このような背景から、当時の郵政省（現在の総務省）は1961年3月、テレビ放送用周波数の基本的な割り当て計画を見直し、UHF帯をテレビ放送に割り当てる方針を決定しました。これを受けてNHKは、国の委託を受けて、UHF帯を使った本格的な実験を開始しました。特に、NHK放送技術研究所に設けられた実験局は、1960年のカラーテレビジョン本放送開始に関連するもので、UHF帯テレビ実験の先駆けとなりました。

当初は、茨城県日立市、高萩市、滋賀県大津市の3ヶ所に小出力の中継局（サテライト局）として実験局が設置されました。大津局は元々1960年にVHFの実験局として開局したものをUHFに転換したものです。

これらの実験結果を踏まえ、郵政省は1963年5月にテレビ放送用周波数の第2次割り当て計画を修正し、全国96地区に中継局用としてUHF帯のチャンネルを割り当てました。日立局と高萩局は、同年6月に日本初のUHFテレビ本放送へと移行しました（高萩局は後に移設され十王中継局となりました）。大津局は1966年に中継局に移行後、1971年には県域放送の実施を視野に入れた総合テレビジョンの親局へと転換しました。この時期、UHF放送を視聴するには、UHFコンバータと呼ばれる変換装置が必要でした。

大電力UHF局の実現へ

1964年9月、郵政省の諮問機関は、UHF帯は当面、NHKや民放の難視聴解消と、民放の最低2局サービス提供のために使用し、大出力の親局への割り当ては時期尚早とする勧告を行いました。しかし、佐賀県や兵庫県など、VHF波では他県エリアとなる地域からの県域放送局設立を求める声や、過去の放送免許争奪戦に敗れた法人からの新たな放送局開設への要望は高まっていました。

これに応えるため、NHKは1966年4月、大出力UHF局の実現に必要なデータ収集を目的として、総合テレビジョンのみが放送されていた徳島市に、教育テレビジョン放送のためのUHF大電力テレビ実験局の開設を申請し、予備免許を取得しました。1967年 2月20日から実験放送が開始されました。

実験開始から約4ヶ月後、NHKは実験結果を郵政大臣に提出しました。郵政省はこの結果を分析し、同年10月、テレビ放送用周波数の割り当て計画を修正し、19地区の23局に対し、UHF帯の親局用チャンネルを割り当てました。徳島教育テレビジョンの実験は1年間続けられ、1968年 2月20日には空中線電力を引き下げ、UHF帯で最初の親局となりました。総合テレビジョンにおけるUHF帯の最初の親局は、1969年 3月15日に開局した佐賀総合テレビジョンでした。

大都市部での実験と放送大学

1969年3月、郵政大臣は東京と大阪でのNHK UHF実験局の検討を表明しました。これは、大都市部におけるUHFテレビ放送の受信障害などの実態を調査することを目的としていました。1970年12月に大阪、次いで東京で実験局が開局し、調査が開始されました。これに合わせて、東京・大阪間にはUHFテレビ用の回線も開通しました。

1971年12月、郵政省は放送大学のテレビ実験番組に備えるため、放送試験局制度を新設する電波法関連の改正を公布・施行しました。これにより、1972年 2月7日、それまでの「テレビ実験局」は「テレビジョン放送試験局」に切り替えられました。同年2月から3月にかけて、NHKの通常番組に加えて放送大学のテレビ実験番組が放送されました。その後も、毎年概ね1月から3月にかけて放送大学の実験番組が続けられました。

試験放送開始当初は、総合テレビジョンとの同時放送（サイマル放送）も行われましたが、1971年1月からは、サイマル放送の時間に加え、夜間に独自の編成枠を設け、連続テレビ小説や婦人百科など、夜間放送の要望が多かった番組の再放送や、ドラマの先行放送・再放送なども行われました。

しかし、第1次オイルショックの影響を受け、1974年1月からは総合・教育テレビと同様に、昼間の一時放送休止や夜間の放送終了時間繰り上げが実施されました。一方、この試験放送局でのUHF受信に関する調査には一定の成果が得られ、また放送大学実験番組に関する調査・研究が1974年度で終了することから、業務効率化の観点もあり、1975年 4月7日に試験放送を休止し、放送免許が失効する1976年2月6日をもって正式に廃止されました。東京地区で使用されていた14chは後に東京メトロポリタンテレビジョンが、大阪地区の14chは読売テレビがそれぞれアナログ・デジタル放送で利用しました。

この実験の主な目的の一つであった放送大学学園は、1981年に設立され、1984年には東京タワーからテレビ局とFMラジオ局の免許が交付されました。同年11月から試験放送を開始し、学生募集を行い、1985年 4月1日より正規の授業放送を開始しました。地上波アナログ放送は2011年に終了し、首都圏での地上デジタルテレビ・FMラジオ放送も2018年9月末で終了、現在は衛星放送に一本化されています。

スーパーハイビジョン実用化実験

2020年の東京オリンピック開催が決定したことを受け、国はより高画質なデジタル放送の実現を目指す方針を示しました。これに応じ、NHKは2013年11月、8Kスーパーハイビジョン放送の地上波での実現を目指す実験局の免許を総務省から受けました。この実験は、熊本県人吉市で行われました。

実験の結果を踏まえ、総務省の情報通信審議会で詳細な検討が進められ、2023年7月に答申が出されました。今後は、総務省において実現に向けた関係法令の整備が進められる見込みです。

NHKのUHFテレビ実験局は、このように時代の要請に応じ、日本のテレビ放送の発展、特にUHF帯の活用や新たな放送方式の研究に貢献した重要な役割を果たしました。

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