ODB++

ODB++とは

ODB++は、電子機器の設計と製造に使用されるCAD-CAMデータ交換フォーマットです。主にプリント基板（PCB）の設計情報を、CADシステムからCAMシステムへ、あるいは異なるEDAベンダーの設計ツール間でやり取りするために用いられます。元々はValor Computerized Systemsによって開発され、後にMentor Graphics（現Siemens）に買収されました。このフォーマットは、設計データだけでなく、製造に必要な様々な情報を含む点が特徴です。

ODB++は、オープン[データベース]の略とされていますが、そのオープン性には議論があります。1997年にコンポーネント記述が追加された際に、C++を連想させる「++」という接尾辞が付与されました。ODB++には、オリジナル版（Siemensが管理）と、XML版であるODB++(X)の2つのバージョンが存在します。

導入

電子機器内部にはほぼ必ずプリント基板が存在し、その上に電子部品が実装されています。これらの基板はCADシステムで設計され、製造にはCAMシステムが必要です。CADとCAMは異なる企業によって製造されることが多いため、データ交換フォーマットが不可欠となります。ODB++は、このようなデータ交換を円滑に行うためのフォーマットの一つです。

ファイル構造

ODB++のデータは、ファイルとフォルダの階層構造で保存されます。データ転送には、階層構造を維持したまま、圧縮ファイルとしてまとめて送ることが一般的です。例えば、Unix環境ではtarコマンドやgzipコマンドを使用できます。ODB++(X)では、データは1つのXMLファイルに格納されます。

ODB++は、導体層のアートワークやドリルデータだけでなく、材料の構成、テストポイントを含むネットリスト、部品表、コンポーネント配置、製造データ、寸法データなど、幅広い情報に対応しています。

歴史

Valor社は1992年に設立され、1995年にODBをリリースしました。1997年にはコンポーネント名が追加され、ODB++となりました。XML版のODB++(X)は2000年から開発され、2008年にIPCに提供されました。その後、Valorは2010年にMentor Graphicsに買収され、さらに2016年にはSiemensに買収されました。

2020年にはODB++は拡張され、デジタルツインを用いて設計者と製造者間のコミュニケーションを円滑にするよう設計されました。このフォーマットはODB++ Familyと改名され、以下の3つに分割されました。

ODB++Design: 設計データ。
ODB++Process: 製造装置で使用するための移行フォーマット。
ODB++Manufacturing: 製造現場でのイベント用フォーマット。

採用状況

1990年代後半、第二世代のデータ転送フォーマットが第一世代のガーバーフォーマットよりも効率的であることが認識されました。しかし、どのフォーマットを選ぶべきかについては合意形成が困難でした。候補としては、実績のあるがプロプライエタリなODB++と、オープンだが広く使用されていないIPC-2511 GenCAMがありました。

2002年には、GenCAM陣営とODB++陣営の間で調整が行われ、妥協案としてODB++(X)が提唱されました。しかし、実際には採用は限定的で、業界は分裂したままです。2014年にはガーバーX2が登場し、ガーバーフォーマットに属性を追加することで、第二世代フォーマットとしての機能が向上しました。

支持

ODB++をサポートするEDAツールは多く、採用を推奨する企業も存在します。例えばStreamline Circuitsは、ODB++がガーバーフォーマットよりも効率的であると主張しています。DownStream Technologiesは、ODB++を「EDAにおけるインテリジェントなデータ交換のためのデファクトスタンダード」と評価しています。

批判

ODB++はプロプライエタリなフォーマットであるため、ベンダーロックインのリスクが懸念されています。特に、CAM企業であるValorが管理していた時代には、CAD企業からの懸念がありました。MentorによるValor買収後も、この懸念は増大しました。

MentorはODB++のオープンなサポートを主張していますが、以前は仕様へのアクセスを制限し、秘密保持契約を求めていました。しかし、現在では旧バージョンのフォーマット仕様はオープンに利用可能であり、ODB++ソリューションアライアンスを通じて、ODB++インターフェースの構築と保守支援が提供されています。

必要性の欠如

ガーバーフォーマットの開発者であるUcamcoは、ガーバーベースのフローがODB++と同様に完全で効率的であると主張しています。ガーバーX2によって、ガーバーフォーマットにも属性を追加できるようになり、第二世代フォーマットとしての機能が強化されました。

代替フォーマット

ODB++のプロプライエタリな性質に対する批判から、よりオープンなフォーマットがいくつか提案されています。

ガーバーフォーマット: 名目上はUcamcoの独自フォーマットですが、広く利用されています。
IPC-2511 (GenCAM): Teradyne/GenRADがIPCに技術提供したフォーマット。
IPC-2581 (Offspring): GenCAMとODB++(X)を統合する試み。業界コンソーシアムによってサポートされています。
OpenAccess: CadenceからSi2への技術移管で生まれたフォーマット。
JPCA-EB02 (Fujiko): 福岡大学の友景教授の研究に基づくフォーマット。
* EDIF: 電子設計データ交換用フォーマット。

まとめ

ODB++は、プリント基板設計における重要なデータ交換フォーマットです。その利便性から多くの企業で採用されていますが、プロプライエタリである点や代替フォーマットの存在など、議論の余地も残されています。今後の動向に注目が必要です。

もう一度検索