P4M (航空機)

マーチン P4M マーケーター：レシプロとジェットの複合動力偵察機

マーチン P4M マーケーターは、マーチン社が開発した洋上偵察機です。アメリカ海軍の長距離洋上哨戒爆撃機の要求仕様に応えるために設計されましたが、ロッキード P2V ネプチューンとの競合に敗れました。その後、短期間ではありましたが、長距離電子偵察機として運用されました。

特徴的な設計

マーケーターの最大の特徴は、レシプロエンジンとターボジェットエンジンを組み合わせた複合動力システムです。レシプロエンジンは通常の推進力を担い、ターボジェットエンジンは離陸時や戦闘時のブースト用として使用されました。ジェットエンジンはエンジンナセルの後部に配置され、独特の外観を形成していました。

「マーケーター(Mercator)」という名称は、地図の図法で有名な「メルカトル」の英語名に由来します。

開発の経緯

本機は、マーチン社のモデル219として設計が開始され、1946年 10月20日に初飛行を成功させました。2基のプラット・アンド・ホイットニー R-4360 ワスプ・メジャー 28気筒星型エンジンを搭載したP4Mは、大型で複雑な機体でした。エンジンナセルの後部には、ブースト用としてアリソン J33ターボジェットエンジンが装備されていました。

ジェットエンジンの空気取り入れ口は、レシプロエンジンの後方下部に設けられていました。興味深いことに、多くのレシプロ/ジェット複合動力機と同様に、ジェットエンジンはジェット燃料ではなくガソリンを燃料として使用していました。

降着装置は3輪式で、前輪は前方に引き込まれる構造でした。主脚は単車輪式で、翼内に引き込まれますが、カバーはなく、収納時でも車輪の側面が露出していました。翼も特徴的な構造で、内翼と外翼で異なる翼断面が採用されていました。

強力な武装

P4M マーケーターは、強力な防御火力を備えていました。機首と尾部にはエマーソン式とマーチン式の銃座に各2門の20mm機関砲が装備され、背面にはマーチン式銃座に12.7mm機関銃2挺が搭載されていました。

爆弾倉は、アメリカの爆撃機に一般的な短くて深いものではなく、イギリス式の長くて浅いものでした。これにより、長魚雷、爆弾、機雷、爆雷などの多様な兵装や、長距離飛行用の増加燃料タンクの搭載が可能となりました。

運用と実戦

アメリカ海軍は、洋上哨戒機としてはより小型でシンプル、かつ安価なP2Vネプチューンを選定しました。しかし、P4Mも高速機雷敷設機として19機が発注されました。1951年には、この任務は電子偵察（SIGINT）に切り替えられ、PB4Y-2 プライバティアの後継機となりました。監視装置の操作のために乗員は14名（後に16名）に増員され、多種多様なアンテナが装着されました。

偵察飛行は、フィリピン（後に日本）を基地とする第1艦隊偵察飛行隊（VQ-1）によって、中国国境や極東ロシアの沿岸部に対して行われました。これらの活動は極秘事項であり、無線通信時には通常のP2Vネプチューンであるかのように偽装されました。

P4Mは、社会主義圏の沿岸に極めて接近する偵察任務に従事したため、迎撃されて損害を受ける事例が多発しました。1956年8月22日には、1機が上海沖で中国人民解放軍の戦闘機によって撃墜されました。1959年6月16日には、北朝鮮沿岸における偵察活動中に、北朝鮮空軍のMiG-17 2機に迎撃され、銃撃を受けました。この際には、被弾により乗員1名が犠牲となりましたが、辛うじて逃げ切ることができました。

P4Mは、VQ-2によってモロッコでも運用されました。この方面では、1機がソビエト連邦の迎撃機によってウクライナ近くの空域で迎撃される事態が発生しました。この際、P4Mはジェットエンジンをブーストさせて急加速することで逃げ切ろうとしましたが、着陸予定地のトルコの基地に到達する前に燃料が尽き、地中海に墜落し、乗員全員が死亡しました。

EA-3 スカイウォリア（艦上機であるため、より柔軟な運用が可能）との交代により、P4M マーケーターは1960年に全機が退役しました。退役後、P4Mは全て廃棄処分となり、現存する機体はありません。

各型

XP4M-1: 試作型。R-4360-4 エンジン双発。2機製作。
P4M-1: 生産型。R-4360-20A エンジン双発。19機製作。
P4M-1Q: P4M-1の対レーダー戦用改装機に与えられた呼称。

要目 (P4M)

乗員: 9名
全長: 26.0 m
全幅: 34.7 m
全高: 8.0 m
翼面積: 122 m2
空虚重量: 22,016 kg
全備重量: 40,088 kg
エンジン: [プラット・アンド・ホイットニー R-4360]] ワスプ・メジャー空冷星型[[レシプロエンジン] ×2 + アリソン J33-A-23ターボ[ジェットエンジン] ×2
最高速度: 660 km/h
航続距離: 4,570 km
上昇限度: 10,500 m
電子装備: AN/APS-33 捜索レーダー
武装: 20 mm機関砲(機首および尾部銃座)計4門、12.7 mm機関銃(背部銃塔)2門、爆弾・機雷・爆雷・魚雷等最大5,400 kg