アブロシャクルトン

アブロシャクルトン：長距離洋上哨戒機の雄

アブロシャクルトンは、イギリスのアブロ社が開発した長距離洋上哨戒機です。アブロリンカーン爆撃機をベースに、新たな胴体を組み合わせることで誕生しました。主にイギリス空軍で運用され、対潜戦（ASW）や洋上哨戒（MPA）といった任務を担いました。後に早期警戒管制（AEW）や捜索救難（SAR）など、幅広い役割を担うようになり、1951年から1990年まで、長きにわたり活躍しました。また、南アフリカ空軍でも1957年から1984年まで運用されました。

機体の名称は、極地探検家として名高いアーネスト・シャクルトンに由来します。

設計と開発

シャクルトンは、アブロ社のロイ・チャドウィックによって「タイプ696」として設計されました。これは、アブロリンカーンをベースとしており、リンカーン自体は第二次世界大戦で活躍したアブロランカスター重爆撃機から派生した機体です。シャクルトンの開発は、リンカーンの主翼と降着装置に新しい胴体を組み合わせるというもので、開発当初は「リンカーン ASR.3」と呼ばれていました。

ロールス・ロイスグリフォンエンジンは、直径4mの二重反転プロペラを駆動し、独特のエンジン音とともに、操縦士が聴覚障害を引き起こすほどの高周波音を発生させました。初飛行は1949年 3月9日、アブロ社の主任テストパイロット、J・H・オーレルによって行われました。対潜戦では、ソノブイ、電子支援手段（ESM）、ディーゼル排煙探知装置（Autolycus）、そして短期間ではありましたが磁気探知機（MAD）も搭載されました。武装としては、爆弾9発、または航空魚雷や爆雷3発に加え、20mm機関砲を装備していました。

運用からのフィードバックを基に改良されたMR.2型は、愛好家からはシャクルトンの決定版とみなされています。全周囲の索敵能力とバードストライクのリスク軽減のため、レドームが機首から胴体下面に移設され、機首と機尾が延長されました。また、尾翼の再設計や降着装置の強化も行われました。

MR.3型は、乗員の要望に応じた改設計が施されました。首車輪式の降着装置が導入され、胴体が全体的に拡大、エルロンの改良や翼端増槽の装着も実施されました。また、15時間にも及ぶ飛行で乗員の士気を維持するため、遮音性の向上や専用のギャレー、仮眠用スペースが設けられました。これらの改良により、MR.3型の離陸重量は増加し、離陸を補助するため、アームストロング・シドレーヴァイパー Mk.203 ターボジェットエンジン（JATO）を使用する必要がありました。この特殊な仕様は機体に負荷をかけ、英空軍のMR.3型はMR.2型よりも早期に退役することになりました。しかし、南アフリカ空軍のMR.3型は、武器禁輸措置の影響でこの改修を受けず、独自の改良が続けられました。

運用の歴史

1951年から1958年の間に、合計185機のシャクルトンが製造されました。現在、飛行可能な状態にあるのは南アフリカ空軍の「1722」機のみですが、操縦資格を持つ搭乗員が不足しているため、実際には飛行は難しい状況です。

イギリス空軍

1951年4月、MR.1型が空軍沿岸航空軍団に配備され、スエズ危機で実戦投入されました。全ての型でグリフォンエンジンが使用されたため、燃料と潤滑油の消費率が高く、騒音や繊細さによる高い整備負荷に悩まされました。1961年には、MR.2型エンジンは400飛行時間ごとにエンジンヘッドのオーバーホールが必要であり、シリンダーヘッドからスパークプラグを取り外して点検する必要がありました。6機編成の1飛行隊では、日常的にエンジン交換が行われていました。エンジンの換装計画は何度か持ち上がりましたが、有力候補であったネイピアノーマッドへの換装は実現しませんでした。

1960年代初めには、シャクルトンの後継機を求める声が上がり始めました。1969年にホーカー・シドレーニムロッドが登場すると、シャクルトンはほとんどの任務から退きましたが、1972年まで主力SAR機として運用されました。しかし、フェアリーガネットの退役により、北海と北大西洋での早期警戒任務の必要性が生じ、シャクルトンは退役を免れました。既存のAN/APS-20レーダーを搭載したMk.IIのAEW.2型が1972年から就役し、新しい設計の機体が必要とされたのは1970年代後半まででした。ニムロッドAEWへの代替計画が長期化し、最終的にイギリス空軍がニムロッドAEWを諦め、1991年にE-3 セントリーを導入するまで、シャクルトンの後継機は登場しませんでした。

南アフリカ空軍

1953年、南アフリカ空軍はイギリス空軍のMR.2型4機を評価した後、ショートサンダーランドの後継機として8機のシャクルトンを発注しました。南アフリカの環境に適応させるため、いくつかの改良が加えられ、MR.3型として採用されました。これらの機体には1716から1723の登録記号が付与され、南アフリカ空軍第35飛行隊で1984年9月まで洋上哨戒任務に就きました。一部では「密集編隊で飛行する10万個のリベット」と揶揄されることもありましたが、その信頼性の高さは高く評価されていました。

派生型

シャクルトン MR.1: 英空軍向けの最初の量産型。後にシャクルトン GR.1と改称。29機製造。
シャクルトン MR.1A: グリフォン 57A エンジン搭載型。機首下にレドームを装備。1951年4月から就役。47機製造。
シャクルトン MR.2: 機首を延長し、レドームを胴体下面に移設した型。60機製造。他に21機がMR.3型に改造。
シャクルトン MR.2C: MR.3型の航法装置と防御武装を備えた数機のMR.2型。約9機。
シャクルトン MR.3: 洋上哨戒・対艦船機型。降着装置を尾輪式から首車輪式に変更。翼端増槽を装着。33機製造、うち8機が南アフリカに輸出。
シャクルトン MR.3 Phase 2: 離陸補助（JATO）用のアームストロング・シドレーヴァイパーターボジェットエンジンを2基搭載したMR.3型。
シャクルトン MR.4: 新しい洋上哨戒機型の計画。製造されず。
シャクルトン AEW.2: 早期警戒機。フェアリーガネット早期警戒機のレーダーを流用してMR.2型を改装。
シャクルトン T.4: 航法訓練機に改装された型。

運用

南アフリカ
南アフリカ空軍第35飛行隊

イギリス
英空軍（空軍沿岸航空軍団）
第8飛行隊
第37飛行隊
第38飛行隊
第42飛行隊
第52飛行隊 - 輸送任務に2機を使用
第120飛行隊
第201飛行隊
第203飛行隊
第204飛行隊
第205飛行隊
第206飛行隊
第210飛行隊
第220飛行隊
第224飛行隊
第228飛行隊
第240飛行隊
第269飛行隊
英空軍第236運用転換部隊
英空軍洋上運用訓練部隊
英空軍空対艦兵装開発部隊

現存機

飛行可能機
南アフリカ空軍の「1722」機が唯一飛行可能なシャクルトンですが、現在は展示飛行のみで使用されています。

地上展示機
MR2C WL795: イングランド、セント・マウガン空軍基地
MR2 WR963: イングランド、コヴェントリー空港（高速タクシング可能）
AEW2 WR960: イングランド、マンチェスター産業科学博物館
MR3 WR971: イングランド、ウィスベッチ（フェンランド & ウエストノーフォーク航空博物館）
MR3 WR974: イングランド、ガトウィック航空博物館（エンジン稼動可能）
MR3 WR977: イングランド、ニューアーク航空博物館
MR3 WR982: イングランド、ガトウィック航空博物館
MR3 WR985: イングランド、ロングマーストン（個人所有）
AEW2 WL747: キプロス、パフォス国際空港（遺棄）
AEW2 WL757: キプロス、パフォス国際空港（遺棄）
AEW2 WL790: アメリカ、アリゾナ州、ピマ航空宇宙博物館
SAAF 1716 ('Pelican 16'): 1994年に飛行可能な状態に修復されましたが、同年英国に向かう途中でエンジン停止が重なりサハラ砂漠に不時着し遺棄。
SAAF 1717: クワズールー、交通博物館
SAAF 1720: エイステールプラート空軍基地
SAAF 1721: スヴァルトコップ空軍基地、南アフリカ空軍博物館
SAAF 1723: ヨハネスブルグ、ソウェト（ヴィックス・ヴァイキング・ガレージ）
MR3 XF708: イングランド、ダックスフォード帝国戦争博物館

要目

乗員: 10名
全長: 26.61 m
全幅: 36.58 m
全高: 5.33 m
翼面積: 132 m²
最大翼面荷重: 300 kg/m²
翼型: NACA 23018改（付け根）、NACA 23012（翼端）
空虚重量: 23,300 kg
最大離陸重量: 39,000 kg
燃料搭載量: 19,360 L
エンジン: 4 × ロールス・ロイスグリフォン 57 液冷V型12気筒、1,960 hp
最小馬力重量: 150 W/kg
プロペラ: 2重反転プロペラ（直径4 m）
最大速度: 480 km/h
航続距離: 3,620 km
巡航高度: 6,200 m
滞空時間: 14.6 時間
武装:
機銃: 2 × 20 mm イスパノマークV機関砲（機首）
爆弾: 4,536 kg、魚雷、機雷

外部リンク

The Shackleton Association
Aircraft.co.za - Avro Shackleton
Avro Shackleton Site
David Gubbins Website with airframe histories
The Shackleton Project, Ysterplaat AFB, South Africa
FRIENDS OF WR963

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