PC-VAN

PC-VAN：日本のパソコン通信黎明期の先駆者

PC-VANは、NECが1986年から2001年まで提供していたパソコン通信サービスです。日本の有料パソコン通信サービスとしては最も古い部類に入り、初期のパソコン通信文化を大きく形成しました。夜間の回線空き時間を個人向けに開放したNECの付加価値通信網C&C-VANを基盤としており、電子掲示板、チャット、電子メールなどが主なサービスでした。BIGLOBEとの統合を経て、2003年にはサービスが完全に終了しました。

主要サービスと機能

電子メール

PC-VANの電子メールは、ログイン時に到着を電子音で知らせるなど、当時としては革新的な機能を備えていました。専用のエリアからアクセスでき、テキストデータだけでなくバイナリデータの送受信も可能でした。最大3ヶ月間の保存期間があり、受信確認も確認できました。当初はPC-VAN会員間のみの送受信でしたが、後にニフティサーブとの相互乗り入れ、そしてインターネットメールとの送受信も可能になりました。

電子掲示板

一般掲示板、テーマ別掲示板、地域別掲示板などがあり、特に一般掲示板のフリーボードと地域別掲示板は活発な情報交換の場となっていました。発言の保存期間は当初最大3ヶ月でしたが、後に1週間または発言数1000件に短縮されました。SIG（Special Interest Group）と呼ばれる特定の話題に特化した掲示板もあり、こちらは発言数4000件まで保存されていました。文字数や行数に制限はありましたが、ジャンプ用キーワードによる直接アクセスも可能でした。フリーボードでは、アダルトビデオなどの宣伝なども見られ、運営側は消極的な対応を取っていました。

SIG (Special Interest Group)

PC-VANの大きな特徴の一つがSIGです。特定の趣味や関心に基づいたコミュニティで、活発な議論や情報交換が行われていました。多くのSIGが独自の文化やルールを持つなど、PC-VANにおける多様なコミュニティ形成に大きく貢献していました。

OLT (On-Line Talk)

OLTはPC-VANにおけるチャットサービスで、一般OLTとSIG内OLTがありました。一般OLTは最大50チャンネルまで拡張され、SIG内OLTは1チャンネルでした。「OLT広場」と呼ばれる電子掲示板も併設されていましたが、OLTとは独立して使用されることもありました。SC（スクランブル）機能により、特定の会員間でのみ見える会話も可能でした。OLTは有料サービスだったため、会員間でのトラブルも発生していました。

OSL (On-Line Software Library)

OSLはソフトウェアやデータなどのバイナリファイルのアップロード・ダウンロードサービスです。当初はPDS（Public Domain Software）と呼ばれていましたが、著作権問題からOSLへと名称変更されました。著作権の扱いを巡って様々な問題が発生し、特に大規模なSIG「GV」では無差別コピーが問題となりました。アップロードされたソフトウェアにウイルスが含まれるケースもありました。

クラブ・サークル

SIG内でトラブルが発生した場合、新たなSIGを作ることは容易ではありませんでした。そこで、追加料金を支払うことでメンバー制のSIGもどきであるクラブ・サークルが提供されました。しかし、クラブ・サークルがSIGに昇格することはありませんでした。

ハンドル

会員はハンドルネームを設定できましたが、当初は変更不可でした。後に変更可能になりましたが、会員情報の検索でハンドルネームから会員を特定できるため、複数のIDを持つユーザーもいました。OLTではハンドルネームがアイデンティティとして重視されていました。

PC-VAN文化と論争

PC-VANはニフティサーブと異なり、運営の自由度が高く、独自の文化が形成されました。運営側の消極的な対応、発言削除機能の欠如などが、この文化形成に影響を与えました。しかし、これは「言論の自由」を保障する側面もありました。一方で、問題発言に対するユーザー間の自主規制や、論争技術の発達も見られました。

「ネットの中の事はネット内で解決する」という不文律があり、運営事務局に訴えることは蔑まれる行為でした。「LADY紛争」や「OLT訴訟」など、様々な論争や事件が発生し、PC-VAN文化を彩りました。ニフティサーブからPC-VANに移ってきたユーザーとの間でも文化の違いによる摩擦が生じました。

文化の翳りと終焉

1993年には、初心者向けのフォーラム「わかばマーク（WAKABA）」が開設されましたが、既存会員との軋轢を生み、新たな文化の分断をもたらしました。会員数の減少や文化の方向性の迷走を経て、PC-VANは2001年にパソコン通信サービスを終了しました。

用語集

RAM：書き込みと読む両方を行うユーザー
ROM：読むだけのユーザー
* MSG：発言

PC-VANは、日本のパソコン通信の歴史において重要な役割を果たしたサービスであり、その文化や歴史は現在でも語り継がれています。

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