付加価値通信網

付加価値通信網（VAN）とは

付加価値通信網（VAN: Value-Added Network）は、1980年代に広く利用された通信サービスであり、単なる回線貸借に留まらず、独自のコンピュータシステムを介して様々な付加価値を提供するネットワークを指します。

VANの基本概念

VANは、第一種電気通信事業者から借り受けた通信回線に、自社で構築したコンピュータシステムを接続することで、以下のような機能を提供していました。

回線リセール: 通信回線を再販することで、より柔軟な通信サービスを提供。
プロトコル変換: 異なる通信プロトコル間の変換を行い、異種システム間での通信を可能に。
ファイルフォーマット変換: 異なるファイル形式間の変換を行い、データ共有を容易化。
データ蓄積・交換: オフライン時に届いたデータを一時的に預かり、必要なタイミングで配信。
情報処理: データの加工や分析を行い、付加価値の高い情報を提供。

これらの機能により、VANは単なる通信インフラではなく、企業間の情報交換を効率化するための重要なツールとなりました。

VANの歴史的背景

VANの概念は、1960年代後半から1970年代初頭にかけて、インターネットの黎明期に登場したARPANETやTymnetなどのネットワークにそのルーツを見ることができます。これらのネットワークは、共通の通信プロトコルや翻訳コンピュータを介することで、異種システム間での情報交換を円滑にし、大量の情報を効率的に処理することに成功しました。

日本においては、1972年の通信回線開放によりデータ通信が一部解禁されましたが、1対1の通信に限られていました。その後、1982年の第二次通信回線開放により、メッセージ交換や中小企業向けVANサービスが解禁され、企業間でのデータ交換や情報共有が本格化しました。

VANの発展と衰退

1980年代には、パソコン通信や電子メール、オンラインデータベースなどのサービスが登場し、VANは一般ユーザーにも広く利用されるようになりました。企業向けには、電子データ交換（EDI）サービスが普及し、受発注業務の効率化に貢献しました。

しかし、1990年代半ば以降、ISDNやインターネットなどの安価な通信回線が登場し、情報処理機能もホストコンピュータからサーバへと移行したことで、VANは徐々に衰退しました。現在では、多くのVANサービスがクラウドサービスなどに形を変えて存続しています。

VANの具体例

VANは、様々な業界で利用され、それぞれのニーズに合わせたサービスを提供していました。以下に、代表的なVANの例をいくつか紹介します。

物流系

ネコネットVAN（ヤマト運輸）：貨物追跡システムや受発注システムを提供。
SEINO-VAN（西濃運輸）：貨物追跡システムや物流・販売情報支援システムを提供。
トナミVANネットサービス（トナミ運輸）：同様のサービスを提供。
SHIPNETS：港湾における船積貨物の輸出入手続きを支援。
NACCS：輸出入・港湾関連の情報処理システム。

金融系

ファームバンキング：マルチバンクレポートや売上回収システムを提供。
全銀システム：全国の銀行間でのデータ通信システム。
地銀ネットワークサービス：地方銀行間のデータ通信システム。
ANSER：NTTデータが運営するインターネットバンキングシステム。
CAFIS：NTTデータが運営するクレジットカード決済システム。

その他

JRA-VAN：JRAの競馬情報サービス。
* 出版VAN：出版社と取次会社間の受発注・返品情報交換サービス。

これらの例からも分かるように、VANは様々な業界で業務効率化に貢献しました。

VANの現代における意義

VANは、現代のインターネットにおけるWebサービスやクラウドサービスといったものに置き換えられ、その技術や概念は、現在のITインフラを支える基礎となっています。また、VANが提供していたEDIサービスは、業界特化型のクラウドサービスとして形を変え、現在も利用されています。VANは、情報技術の発展において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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