PHOTOGRAPHS

Photographs

『Photographs』（フォトグラフス）は、日本の代表的なフュージョンバンド、カシオペアが1983年に発表した通算9作目のオリジナルアルバムです。本作は、彼らのディスコグラフィーの中でも特にポップな音楽性が際立った作品として知られています。

制作背景

このアルバムの制作にあたり、ユニークなアプローチが取られました。メンバーはレコーディングに先立ち、それぞれが独自の音楽的インスピレーションを求め、世界各地へと旅に出ました。例えば、ギタリストの野呂一生はインドへ、キーボーディストの向谷実はヨーロッパへと足を運び、異文化や現地の空気から新たな着想を得ようと試みました。世界各地で得られたそれぞれの体験や発見を持ち寄り、それを音楽に昇華させることで、カシオペアのサウンドに新たな可能性をもたらすことが、このアルバムのコンセプトとされました。

サウンドの特徴

『Photographs』は、先行するアルバム『CROSS POINT』以降に確立された洗練されたサウンドの流れを汲みながらも、そこに新たな要素を積極的に取り入れています。

特筆すべきは、バンドとして初めてサンプリングの手法を導入した点です。当時最新鋭のサンプリングキーボード、Emulatorを駆使することで、それまでの打ち込みやシンセサイザーだけでは得られなかった、多層的でカラフルな音作りを実現しました。これにより、楽曲の表現力が飛躍的に向上しています。

また、野呂一生（ギター）や櫻井哲夫（ベース）がスキャットやボーカルを披露するなど、メンバー自身の声を取り入れた楽曲も収録されており、サウンドに温かみや人間味を与えています。こうした新しい試みと、耳馴染みの良いメロディーラインを持つキャッチーな楽曲が多く収録されている点が相まって、カシオペアが元来持っていたポップな側面が、本作でこれまで以上に色濃く打ち出されました。そのサウンドは非常に華やかで、当時の音楽シーンにおいても新鮮な印象を与えました。

人気と評価

本作は、カシオペアの音楽性がよりポップな方向へとシフトしていった時期以降のリスナーからの支持が特に厚く、彼らの代表作の一つとして挙げられることも少なくありません。収録曲の中には、その後のライブで頻繁に演奏され、ファンに愛される定番曲となったものが複数あります。特に、「ルッキング・アップ」や「ミスティ・レディ」といった楽曲は、ライブでの盛り上がりを欠かせない存在となりました。

また、本作は商業的にも成功を収め、第25回日本レコード大賞において『'83アルバムベスト10』に選出されています。

参加ミュージシャン

野呂一生
エレクトリックギター (YAMAHA SG-2000, SG-1000 Fretless)
エレクトリック・アコースティック・ギター
シタール
Amdek Percussion Synthesizer
Prophet-10
Linn LM-1
ボーカル (楽曲A2, B2)
向谷実
キーボード (YAMAHA GS-1, DX-9, CS-70M, CP-35, Moog the SOURCE, ROLAND VP-330, Prophet-10, Oberheim OB-Xa, Emulator, Linn LM-1)
櫻井哲夫
ベース (YAMAHA BB-2000 Milk Bass, Kramer OMZ-6000B)
ボーカル (楽曲B2)
神保彰
ドラム (YAMAHA YD-9000 RG)
パーカッション
Amdek Percussion Synthesizer
Linn LM-1

制作スタッフ

プロデューサー: 宮住俊介, 野呂一生
レコーディング・エンジニア: 吉沢典夫
アシスタント・エンジニア: Shinji Miyoshi
リミックス・エンジニア: 吉沢典夫, 野呂一生
マスタリング・エンジニア: 小林光晴
アート・ディレクション: Kaoru Watanabe
カバー・デザイン: Kaoru Watanabe, Hiroyasu Yoshioka, Katsunori Hironaka
写真: Kohei Onishi
スタイリスト: Makiko Nakamura
ヘアー・メイクアップ: Mitzi(JET)
* リマスタリング: 鈴木浩二 (2016年ハイリゾ版)

『Photographs』は、カシオペアが新たな表現手法に挑戦し、その音楽性をより多くのリスナーに開いた意欲作であり、バンドのキャリアにおいて重要なターニングポイントの一つとなったアルバムと言えるでしょう。

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