PIAT

PIAT：第二次世界大戦を彩ったイギリス軍の携帯式対戦車兵器

第二次世界大戦下、イギリス軍は、ドイツ軍の戦車に対抗できる効果的な携帯式対戦車兵器の必要性に迫られていました。既存の対戦車ライフルや対戦車擲弾では、増強されるドイツ軍戦車の装甲を貫通するには力不足だったのです。この危機的状況を打破すべく開発されたのが、PIAT（Projector, Infantry, Anti Tank）です。本稿では、PIATの開発から運用、評価までを詳細に解説します。

開発の経緯：戦場からの切実なニーズ

PIATの開発は、スチュワート・ブラッカー中佐が戦前から研究していた「軽量小隊迫撃砲」を起源としています。当初は「アーバレスト」と呼ばれ軍に提案されましたが、採用には至りませんでした。その後、ブラッカー中佐は成形炸薬弾頭を備えた改良型の対戦車兵器「ベビー・ボンバード」を提案しますが、テストでは不発に終わります。

しかし、ベビー・ボンバードの開発コンセプトは、ミリス・ジェフリーズ少佐によって引き継がれ、「ジェフリーズ・ショルダーガン」として改良が加えられました。幾多の試行錯誤を経て、1942年8月、ついに「Projector, Infantry, Anti Tank Mark 1（PIAT Mk.I）」として制式採用され、量産が開始されたのです。

PIATの構造：独特な発射機構

PIATは、シンプルな円筒形の外観をしています。照準器、引き金、銃把、単脚、そして肩当てが備えられています。他の対戦車兵器とは異なり、PIATは発射筒後部が閉鎖された構造です。これは、内部に強力なばねとスクリュー式の固定機構を持つ内軸による独特な発射機構によるものです。

ばねの圧縮と内軸の固定後、弾頭を装填し、引き金を引くと、ばねの反発力によって内軸が前進し、弾頭を打ち出します。同時に、撃針が雷管を叩いて発射薬を発火させます。この機構により、閉鎖空間内でも安全に発射できるという利点がありました。

弾体はロケット弾に似た外観ですが、少量の装薬しか含まれていません。そのため、弾道は緩やかな放物線を描きます。対戦車戦闘における有効射程は約100m、建築物への曲射では約350mでした。100mmの装甲板を貫通する能力を有していました。

運用と評価：戦場での実力

PIATは、一個小隊に1基が配備され、射手と弾薬手兼装填手の2名で運用されました。肩当てを用いた伏せ撃ちが推奨されていましたが、状況に応じて立射や、肩当てを使わずに射撃することも可能でした。

兵士からは、装填の煩雑さや有効射程の短さ、命中精度の悪さが指摘されました。しかしながら、敵戦車に対して効果的な唯一の携帯兵器として、多くの戦果を挙げました。ヴィクトリア十字章を受章した兵士も複数存在します。

PIATの命中率は、熟練射手でも100ヤードで60％程度、信管の作動率も75％程度でした。これは、当時の他の対戦車兵器と比較して低い数値ではありませんでした。イギリス軍の戦後分析では、ドイツ軍戦車に対する戦果においてPIATは航空機による地上攻撃に次ぐ貢献をしたとされています。

PIATのその後：後継兵器への移行

PIATは、バズーカや無反動砲といったより近代的な対戦車兵器が登場すると、次第にその役割を終え、1950年に退役しました。しかし、その戦果は決して小さくはなく、第二次世界大戦におけるイギリス軍の歩兵部隊にとって重要な役割を果たした兵器であると言えます。レンドリース法を通してソ連にも供与され、ワルシャワ蜂起などでも使用されました。戦後もイスラエルなどで使用された記録が残っています。

まとめ：イギリス歩兵の頼れる戦友

PIATは、構造上の問題点や命中精度の低さなどの課題を抱えていたものの、第二次世界大戦においてイギリス軍の歩兵部隊に貴重な対戦車火力を提供した重要な兵器でした。その簡素ながらも堅牢な構造、そして戦場で数々の戦果を挙げた歴史は、今もなお語り継がれるべきものです。 PIATは、当時の技術水準における、実用的な対戦車兵器として一定の評価を得ていたと言えるでしょう。 その存在は、当時の戦場の厳しさと、技術革新の必要性を改めて認識させてくれます。

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