POCKET MUSIC ('91 REMIX)

山下達郎『POCKET MUSIC ('91 REMIX)』：進化した名盤の輝き

1985年発表の『POCKET MUSIC』は、山下達郎の音楽キャリアにおいて重要な位置を占める作品です。しかし、オリジナルリリース時には、当時としては先進的だったデジタルレコーディング技術に満足できず、山下達郎自身もミックスに課題を感じていました。その想いを形にしたのが、1991年11月10日にリリースされた『POCKET MUSIC ('91 REMIX)』です。

このリイシューアルバムは、単なる再発ではなく、サウンド面での大幅なブラッシュアップが施されています。エンジニア吉田保氏によるリミックスは、山下達郎本人の監修のもとで行われ、より洗練されたサウンドを実現。当時としては画期的だったデジタルレコーディング技術を最大限に活かしつつ、山下達郎の理想の音像に近づけることに成功しています。さらに、アルバムにはボーナストラックとして、これまで未発表だった「MY BABY QUEEN」が収録。この曲は、1985年のレコーディング当時から存在していたものの、日本語詞に合うメロディーが難しく、英語詞への変更を検討しているうちにリリースの機会を逃していた楽曲です。

『POCKET MUSIC ('91 REMIX)』の魅力は、リミックスによるサウンドの向上だけではありません。パッケージにもこだわりが感じられます。歌詞が掲載されたブックレットに加え、グーフィ森氏によるアルバムと各楽曲についての解説、そして山下達郎自身による曲目解説が書かれた四つ折りカードが同梱。音楽を深く楽しむための工夫が凝らされています。

収録楽曲についても注目に値します。「土曜日の恋人」は、シングルバージョン、アルバムバージョンを含め4種類のミックスが存在しますが、本作にはシングルとしてリリースされたものと同じミックスが収録されています。また、「風の回廊（コリドー）」は、山下達郎自身がミキシングを手掛けたバージョンが収録されており、後に発表されたベストアルバム『TREASURES』にも収録されるほど完成度の高い仕上がりとなっています。

特に「MY BABY QUEEN」は、本作の大きな聴きどころと言えるでしょう。この曲は、当初日本語詞にすることを断念し、英語詞への変更も検討されていたほど、メロディーが独特です。しかし、年月を経て、この楽曲が日の目を見ることになった経緯には、山下達郎の音楽に対する揺るぎない情熱が感じられます。この曲は、2020年発売の『POCKET MUSIC (2020 Remaster)』にも、2020年リマスタリング音源としてボーナス・トラックとして収録されています。

『POCKET MUSIC ('91 REMIX)』は、単なる過去の作品の焼き直しではなく、アーティストのこだわりと技術の進化が融合した、新たな魅力を生み出した作品と言えるでしょう。オリジナル版とは異なる魅力を持つこのアルバムは、山下達郎の音楽性を深く理解する上で、非常に重要な一枚となっています。デジタルレコーディング技術の限界に挑戦し、サウンド面で新たな境地を開拓したこの作品は、多くの音楽ファンに長く愛され続ける名盤として、その価値を保ち続けています。リマスターを経た現在でも色褪せることなく、その魅力を放ち続けている点も特筆すべきでしょう。オリジナル版と比較検討するのも、このアルバムを楽しむ上でのひとつの方法かもしれません。

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