R-4D

R-4Dロケットエンジン

R-4Dは、アメリカのエアロジェット・ロケットダイン社によって開発・製造されている、およそ500ニュートン（N）級の推力を持つ2液式のロケットエンジンです。長年にわたり多くの宇宙ミッションで重要な役割を果たしており、その高い信頼性で評価されています。

歴史と発展

R-4Dの起源は、1960年代に進行していたアポロ計画に遡ります。当初は、アポロ宇宙船の機械船や月着陸船において、精密な姿勢制御を行う目的で設計されました。これらの用途では、1ユニットあたり4基を組み合わせたクラスター構成で使用されました。アポロ計画では、合計で469基ものR-4Dエンジンが宇宙空間でその能力を発揮しました。

アポロ計画終了後、世界の宇宙開発は新たな段階に入ります。特に静止軌道上の通信衛星の需要が飛躍的に増加したことから、R-4Dはその高い信頼性と実績を買われ、静止軌道へ衛星を投入する最終段階、いわゆるアポジキックエンジンとしての改良が進められました。

R-4D-10と名付けられた改良型は、アメリカ海軍のLEASATをはじめとする多数の静止軍事・商業通信衛星に採用されました。ヒューズ（現ボーイング）、スペースシステムズ/ロラール|スペースシステムズ_ロラール、EADSアストリアム、三菱電機といった主要な衛星メーカーが製造する衛星バスに幅広く搭載され、静止軌道への数多くの投入を成功させています。

静止衛星以外にも、R-4Dは多岐にわたるミッションで利用されてきました。汎用アッパーステージであるIABSのメインエンジンとして、また国際宇宙ステーション（ISS）への物資補給を担う日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」（HTV）や欧州のATVといった補給機のエンジンとしても採用されています。

その信頼性は非常に高く、2014年12月には、最新型のR-4D-15 HiPAT（High Performance Apogee Thruster）を使用した静止軌道投入が、アポジエンジンとしての通算100回目の成功を達成したことが発表されました。R-4Dファミリー全体としては、半世紀にわたる運用期間を通じて100%の成功率を維持しているとされています。2014年半ばの時点で、既に850基以上が製造されており、現在も活躍を続けています。最新型のR-4D-15 HiPATは、アポロ時代の初期型R-4Dと比較して約20%の性能向上を果たしています。

技術的特徴

R-4Dエンジンは、燃料と酸化剤を加圧して供給する「圧送式サイクル」を採用した2液式エンジンです。推進剤としては、燃料にモノメチルヒドラジン（MMH）、酸化剤に一酸化窒素を3%添加した四酸化二窒素（MON-3）という組み合わせが用いられています。この推進剤の組み合わせは、室温で貯蔵可能であり、自己着火性を持つため、シンプルなシステム構成で高い信頼性を実現できる特徴があります。

主要諸元（代表値）

全長: 約554 mm
直径: 約279 mm
質量: 約3.76 kg
燃焼サイクル: 圧送式サイクル
推進剤: MON-3 / MMH
推力: 約489 N
比推力: 約315.5 s
燃焼圧: 約0.74 MPa

主な採用実績

R-4Dは非常に多くの宇宙機やプラットフォームで利用されています。代表的なものを以下に挙げます。

宇宙機:
アポロ宇宙船（機械船、月着陸船）
オリオン宇宙船
宇宙ステーション補給機「こうのとり」（HTV）
欧州補給機（ATV）
土星探査機カッシーニ
NASA月探査衛星LADEE
多数の商業静止通信衛星（アポジエンジンとして）
衛星バス:
ヒューズ / ボーイング系（HS 381, HS 393, HS 601 / BSS 601, HS 702 / BSS 702 など）
スペースシステムズ/ロラール|スペースシステムズ_ロラール系（FS-1300 / LS-1300）
EADS アストリアム系（Eurostar 2000, 2000+, 3000）
三菱電機系（DS2000）
ロケット:
IABS（アッパーステージ）
ジャーヴィス（計画のみ）

R-4Dエンジンは、その誕生から現在に至るまで、宇宙探査、通信、科学といった幅広い分野で宇宙機の運用を支え続けており、宇宙開発史における傑出したエンジンのひとつと言えます。

もう一度検索