S&W M39

S&W M39は、アメリカの銃器メーカーであるスミス＆ウェッソン（S&W）社によって開発された自動拳銃です。1954年に市場に登場したこのモデルは、S&Wにとって、そしてアメリカのメーカーとしても初めてのダブルアクション式自動拳銃であり、その後の同社製オートマチックピストルシリーズの基本的な設計思想を確立した重要な一丁となりました。

特徴と設計

S&W M39は、現在西側諸国で広く使用されている9x19mmパラベラム弾を使用し、作動方式には一般的なショートリコイルを採用しています。当時のダブルアクション自動拳銃の先駆けであったワルサーP38のトリガーメカニズムから多くの要素を取り入れています。また、全体的なデザインやショートリコイル機構には、コルト M1911やFN ブローニング・ハイパワーからの影響も見られます。FN ハイパワーに搭載されていた、マガジンが装填されていないと発砲できないマガジンセーフティー機能も受け継いでいます。独自の工夫としては、光の反射を抑えるためのセレーション加工が施されたフロントサイトや、同社の有名なリボルバーであるM19を思わせる調整可能なリアサイトに、S&Wらしさが表れています。

量産モデルとしては早期に軽量なアルミ合金製フレームを採用した点も特筆されます。同時期に開発されたSIG P210やベレッタM1951がスチールフレームで1kg近い重量だったことを考慮すると、M39は当時としては軽量な自動拳銃として完成していました。後に登場するM59シリーズは、ダブルアクションとダブルカラムマガジンによる装弾数の増加を実現し、ベレッタ92やSIG SAUER P226といった後発の競合モデルに先駆けて登場しました。M39/59シリーズは、基本的な設計は古いながらも、DAO（ダブルアクションオンリー）やシングルアクション、さらには.45ACP、.40S&W、10mm Autoといった多様な口径に対応するなど、高い汎用性を持っています。

9x19mm弾やアルミフレーム、ダブルカラムマガジン（M59）といった先進的な要素を備えていたにも関わらず、特に45口径への根強い支持があったアメリカ国内では、なかなか広く普及しませんでした。また、FNハイパワーに比べて太めのグリップは、手の小さい射手には握りにくいと感じられることが多く、「角材のような握り心地」と形容されることも少なくありませんでした。銃身の短さや設計の古さも影響し、1980年代のアメリカ軍制式拳銃選定トライアル（XM9）では、改良型のM459があえなく敗退しており、全体的な評価が常に高かったわけではありません。

公用・軍用での採用

一方で、S&W M39シリーズは警察などの法執行機関では一定の評価を得ており、アメリカを中心に多数の警察組織で採用されました。マニュアルセーフティーの操作性を評価し、グロックのような最新のポリマーフレーム拳銃から、あえてS&Wの第3世代モデルに戻す市警察も存在しました（これはグロックの独特な操作性に起因する側面もあります）。発売から半世紀以上が経過した近年でも、一部で使用されています。日本の警察では、第3世代のステンレスモデルであるM3913が組織犯罪対策部や機動隊などに、海上保安庁ではM5906が特別警備隊などに配備された実績があります。しかし、現在は後継モデルであるS&W M&Pシリーズが登場したことで、M39/59シリーズはすべて生産カタログから外れており、公用機関での使用は徐々に減少しつつあります。

軍隊においては、ベトナム戦争時にその軽量性が評価され、アメリカ空軍の一部部隊で同社のリボルバーと共に使用されました。また、アメリカ海軍の特殊部隊であるNavy SEALsでは、専用サプレッサー装着可能なカスタムモデル「Mk.22 Mod0」が採用されました。「ハッシュパピー」（ Hush Puppy：うるさく吠える猟犬がおとなしくなる、転じて撃たれた人間が静かになることから）の通称で知られるこのモデルは、亜音速弾と専用サプレッサー、そしてスライドの作動音を消すためのスライドロック機能を備えており、非常に高い消音性能を持っていましたが、サプレッサー内部パーツの寿命が短いという欠点もありました。

多彩なバリエーション

S&W M39を基礎として、S&W社からは非常に多くの派生モデルが登場しました。これらのモデルは、一般的に型番が2桁なら第1世代、3桁なら第2世代、4桁なら第3世代に分類されますが、例外も存在します。命名規則は世代ごとに異なり、特に第3世代は数字の組み合わせが複雑で、ユーザーにとって分かりにくい側面がありました。

Mk.22 Mod0 (ハッシュパピー): Navy SEALs向けに開発された、M39ベースの特殊作戦用モデル。サプレッサーやスライドロックを装備し、優れた消音性を実現しました。
S&W M459/M559/M659: M59の第2世代モデル。フレーム材質（アルミ、スチール、ステンレス）によって区別されます。M559はXM9トライアルに参加しましたが、ベレッタ92に敗れました。
S&W M645: S&W初のダブルアクション式45口径自動拳銃です。後にM4506として第3世代に移行しました。
S&W M3913: M39を小型化したモデルで、日本の警察でも採用されました。女性向けモデル「レディスミス」も存在します。
S&W M59|S&W_M5906: M59の第3世代モデルで、海上保安庁で採用されました。洗練されたデザインと握りやすいグリップが特徴です。
S&W 3566 (PC356): パフォーマンスセンター製の競技用モデル。専用の.356 TSW弾を使用し、高い威力を目指しました。
* S&W M4006 TSW: カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール向けに特注された、.40S&W弾を使用するモデル。タクティカルライトレールを備えています。

S&W M39は、同社の自動拳銃の歴史における出発点であり、その後の多様なモデル開発の基礎を築いたモデルです。革新的な特徴と古典的な設計が混在する興味深い存在と言えるでしょう。

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