SF交響ファンタジー

伊福部昭のSF交響ファンタジー：東宝特撮映画音楽の新たな境地

伊福部昭が、自身の作曲を手掛けた東宝特撮映画の音楽を再構成し、1983年に発表した管弦楽曲『SF交響ファンタジー』。ゴジラ、キングコング、モスラといった怪獣映画の音楽素材を、切れ目なく繋ぎ合わせた3つの楽曲から成り立っています。単なる映画音楽の寄せ集めではなく、伊福部昭の独創的な編曲によって、新たな音楽作品として昇華された点が最大の特徴です。

構想から初演まで：熱意と困難

『SF交響ファンタジー』の誕生は、1978年にさかのぼります。特撮映画研究家やレコード会社関係者らとの間で、伊福部昭の映画音楽の管弦楽化構想が持ち上がりました。しかし、一度は頓挫したこの計画は、1983年のコンサートをきっかけに再び動き出します。関係者の熱意と説得により、当初は消極的だった伊福部昭も、最終的には作曲に承諾。睡眠薬を服用しながらの作業だったという逸話も残されています。

5月頃にはコンサートの内容が固まり、平田昭彦を司会に、田中友幸や本多猪四郎といった東宝関係者をゲストに迎えることになります。伊福部は、特撮映画の音楽素材を繋ぎ合わせるという手法で3つの楽曲を完成させました。作品タイトルの「ファンタジー（Fantasia）」には、自由な形式の楽曲という意図が込められていると言われています。

そして、1983年8月5日、日比谷公会堂で行われた「伊福部昭・SF特撮映画音楽の夕べ」において、汐澤安彦指揮、東京交響楽団の演奏により、『SF交響ファンタジー』はついに初演を迎えました。この時の演奏はライブ録音され、キングレコードよりCDが発売されました。伊福部自身は当初、この作品を自身の作品リストに含めるつもりはなかったものの、高い人気を受け、後に正式に作品として認めることになります。

各楽曲の構成と特徴

『SF交響ファンタジー』は、第1番から第3番までの3つの楽曲で構成されています。いずれも三管編成の大編成で、オーケストラの豊かな響きが特徴です。

第1番は約15分間の楽曲で、6本の映画の音楽が使用されています。『ゴジラ』や『キングコング対ゴジラ』、『宇宙大戦争』といった人気作のテーマが、シームレスに繋がって壮大な音楽世界を展開します。

第2番は約16分間で、8本の映画の音楽を使用。様々な怪獣映画の音楽が、緊張感とドラマ性を高めながら流れていきます。『奇巌城の冒険』や『三大怪獣 地球最大の決戦』、『モスラ対ゴジラ』といった作品からの楽曲が織りなす音楽は、聴く者を伊福部昭の世界へと誘います。

第3番は約13分間で、6本の映画の音楽が使用されています。『怪獣総進撃』、『キングコングの逆襲』、『海底軍艦』などからの選曲で、ダイナミックな展開と、どこか懐かしさを感じさせるメロディーが魅力です。

多様な収録状況と人気

『SF交響ファンタジー』は初演以降、多くのオーケストラによって演奏され、様々なCDに収録されています。汐澤安彦、石井眞木、金洪才、小松一彦、広上淳一、本名徹次、ドミトリ・ヤブロンスキーといった著名な指揮者たちが、この作品を演奏しています。また、VHSやレーザーディスク、DVD-Audioなど、様々な映像・音声メディアにも収録され、現在でも高い人気を誇る作品となっています。

まとめ：時代を超えた名作

『SF交響ファンタジー』は、単なる映画音楽の編曲にとどまらず、伊福部昭の作曲家としての才能、そして東宝特撮映画の音楽史においても重要な位置を占める作品です。時代を超えて愛され続けるその魅力は、伊福部昭の音楽表現の深さと、東宝特撮映画の持つ独特の雰囲気の融合にあると言えるでしょう。その壮大でドラマチックな音楽は、今後も多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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