SLブーム

SLブーム：昭和の鉄道熱狂

1960年代から1970年代にかけて、日本中で巻き起こったSL（蒸気機関車）ブーム。それは、単なる鉄道趣味の範疇を超え、社会現象とも言えるほどの熱狂でした。国鉄（日本国有[[鉄道]]）の無煙化政策が進む中、全国各地でSLが姿を消していく。その最後の雄姿をカメラに収めようと、多くの人々が線路沿いに集まりました。このブームは、1965年頃から国鉄のSLが全廃された1975年頃までの約10年間続きました。

ブームの背景

SLブームの背景には、高度経済成長期における日本の社会情勢がありました。カメラや録音機材が一般家庭にも普及し始め、誰もが手軽にSLの姿を記録できるようになったのです。また、鉄道ファンだけでなく、一般の人々もSLの姿にノスタルジーを感じ、別れを惜しむようにSLを追いかけました。

有名な撮影地として、伯備線の布原信号場（現・布原駅）や函館本線の上目名駅などは、多くのファンで賑わいました。彼らは、お目当ての機関車を最高の瞬間を捉えようと、連日、撮影場所に陣取りました。また、SL列車そのものに乗車したり、走行音を録音するファンも多く見られました。

キネマ旬報社からは、SLに特化した専門雑誌『蒸気機関車』も創刊され、ブームをさらに加速させました。

ブームの光と影

SLブームは、鉄道ファンの裾野を広げる一方で、負の側面も生み出しました。一部のファンによる過激な行動が問題視されるようになったのです。有名な撮影地では、場所取りをめぐるファン同士のトラブルが頻発し、中には民家の庭や農地へ無断で立ち入る者も現れました。これらの行為は、住居侵入罪などの不法行為にあたり、地元住民との間で深刻な軋轢を生みました。この問題は、現代の鉄道ファンにおけるマナー問題として、今もなお議論の対象となっています。

しかし、国鉄もSLブームを黙って見過ごしていたわけではありません。ディスカバー・ジャパンキャンペーンと連携し、SLに乗る・見ることを目的とした臨時列車を運行するなど、ブームを積極的に活用しました。

ブームの終焉とその後

SLブーム末期の1973年には、小海線でC56形蒸気機関車による旅客列車の復活運転が行われました。これは、ファンの熱意に応えたものでしたが、SLの終焉が近づいていることを改めて感じさせる出来事でもありました。

1972年10月10日には、SLの動態保存を目的とした梅小路[[蒸気機関車館]]（現・京都鉄道博物館）が開館しました。これは、「鉄道100年記念」という名目もありましたが、SLブームの最中に開館したことで、その関連性が強く意識されました。

そして、1975年12月24日。ついに国鉄から営業運転を行うSLが姿を消し、SLブームも静かに終焉を迎えました。ただし、構内入れ換え用のSLは、1976年3月末まで残っていました。

SLブームは終わりましたが、その熱狂は多くの人々の心に刻まれました。現在でも、大井川鐵道などがSL列車を運行しており、当時の面影を偲ぶことができます。また、鉄道ダイヤ情報が『SLダイヤ情報』として創刊されるなど、SLブームの影響は様々な形で残っています。

参考文献
広田尚敬『蒸気機関車たち 広田尚敬写真集』（ネコ・パブリッシング、2006年） ISBN 4-7770-5178-1
竹島紀元『愛しの蒸気機関車』（祥伝社新書、2007年） ISBN 978-4-396-11089-5
椎橋俊之『ドキュメント感動の所在地』1 - 3（ネコ・パブリッシング、同社『Rail Magazine』誌に連載されたシリーズの単行本化）
椎橋俊之『SL甲組の肖像』シリーズ（ネコ・パブリッシング、『Rail Magazine』誌に連載されたシリーズの単行本化）
椎橋俊之『鉄の馬と兵ども』（イカロス出版『蒸気機関車EX』に連載されているシリーズ及び単行本）
交友社『鉄道ファン』2001年7月号 No.483　特集・SLブームの時代
* 電気車研究会『鉄道ピクトリアル』2008年6月号 No.804　特集・SLブーム

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