STRANGER'S TOUCH
『STRANGER'S TOUCH』（ストレンジャーズ タッチ）は、シンガーソングライター浅川マキが1989年12月13日に東芝EMIのEASTWORLDレーベル（現：ユニバーサルミュージック合同会社内EMIレコーズ・ジャパンレーベル）から発表したアルバムです。公式には彼女の通算25枚目のオリジナルアルバムと位置づけられていますが、それまでの作品群とは趣を異にする、非常にコンセプトワークに富んだ企画盤として制作されました。
本作の最大の特徴は、発表時点での新曲が一切収録されていない点にあります。収録曲はすべて、それまでに発表された彼女の既存作品（アルバム収録曲や短編映画『男からの声』の音源など）を素材として、編集、再録音、リミックス、あるいはオリジナルバージョンのまま再収録といった多様な手法で再構築されています。このため、一般的なオリジナルアルバムというよりは、現在の視点ではコンセプトアルバムや企画色の強いコンピレーションアルバムに近い性格を持つ作品と言えるでしょう。帯には「一九八九・新譜」と記載されていましたが、その実態は過去の音源を用いた再構成アルバムでした。ジャケットに使用されている写真も、このアルバムのために新たに撮影されたものではなく、過去に矢頭保によって撮影された写真が用いられています。
浅川マキ自身はライナーノーツに寄せたコメントで、「このアルバムを聞き終えたとき、ちょうど１本のシネマを観たような印象を受けるのなら、私は嬉しい」と記しています。この言葉からもわかるように、本作は単なる過去曲の寄せ集めではなく、アルバム全体を通して一つのまとまった世界観、あたかも映像作品のような流れや雰囲気を創出することを目指して制作された意欲作です。
収録曲を見ていくと、その編集・再構成の手法の多様性が際立ちます。
オリジナルバージョンの再収録
「都会に雨が降る頃」（アルバム『ONE』収録）
「男からの声」（アルバム『幻の女たち』収録）
「電文「カツテニ シテヨ」」（アルバム『幻の男たち』収録）
これらは、それぞれのオリジナルバージョンがそのまま再収録されています。
エディット・バージョン
「ピグノーズと手紙II」は、アルバム『ONE』収録の「PIGNOSEと手紙」を短くエディットし、ボーカル部分を割愛してインストゥルメンタルとハミングで構成されています。
複数の音源を組み合わせた新規構成曲
「見知らぬ人でなく」は、過去に同名の楽曲は存在しませんが新曲ではなく、トリスタン・ホンシンガーのチェロ演奏に乗せて、語りや音声劇のような形式で展開されます。この楽曲には、1987年のトリスタン・ホンシンガーのライブ音源、アルバム『幻の男たち』収録「四重奏」の語りの一部変更版、そして短編映画『男からの声』からの原田芳雄の台詞と、浅川マキの新録音の台詞を組み合わせた音声劇的なパートが含まれており、さらに既存曲「憂愁」や「夜の匂い」の詩の一部も引用されています。
再録音曲
「あいつが一番〜CHROME SITAR」は、アルバム『アメリカの夜』に収録されていた2曲を組み合わせたメドレー形式で、ハードロック調に大胆にアレンジされています。短編映画『男からの声』やライブのSEも使用されています。
「ちょっと長い関係のブルース〜今夜はおしまい」は、『マイ・マン』と『MAKI VI』にそれぞれ収録されていた2曲を繋いだメドレーで、こちらは軽快なアレンジで再録音されています。
「あの娘がくれたブルース」は、アルバム『ブルー・スピリット・ブルース』収録曲の再録音ですが、ここではバック演奏を排したアカペラ形式で、街の環境音や足音を背景に、掠れた声と口笛で囁くように歌われるという、非常に印象的なアレンジが施されています。
既存演奏のリミックス・再構築曲
「ダンサー」は、アルバム『SOME YEARS PARST』収録曲の再録音ですが、演奏はアルバム『Nothing at all to lose』録音時の別楽曲の音源がリミックスされて使用されており、オリジナルとは異なりサビ部分も語り口調で歌われています。歌詞には奈良あけみ、杉田弘子というダンサーの名前が登場します。
* 「向こう側の憂鬱III」は、過去の同名曲とは異なるインストゥルメンタル曲です。アルバム『UNDERGROUND』収録の「YS・ムーンライト」の演奏から、ドラムやギターなどを取り除き、本多俊之のサックス・ソロを前面に出して再ミックスされた楽曲で、元音源の音が微かに聞こえる箇所があります。
本作の制作には、浅川マキ（ボーカル）に加え、本多俊之（サックス、キーボード、ピアノ）、山下洋輔（ピアノ）、近藤等則（トランペット、トイズ）、下山淳（ギター）、奈良敏博（ベース）、池畑潤二（ドラム）、山内テツ（ギター）、そして海外からの参加者を含む多彩なミュージシャンがクレジットされています。特に「見知らぬ人でなく」でのトリスタン・ホンシンガー（チェロ）や、語りでの原田芳雄の参加は、このアルバムの特異性を際立たせています。
レコーディングエンジニアは、吉野金次、福田豊光、飯田益三といった名手が担当しました。また、ジャケットデザインは金沢良樹、写真は矢頭保によるものです。
『STRANGER'S TOUCH』は、前作『夜のカーニバル』と同様にLPレコードでの発売はされず、CDのみでのリリースでした。収録曲のうち「ちょっと長い関係のブルース〜今夜はおしまい」（Track 6）は、後にベストアルバム『DARKNESS I』にも収録されています。
このように、『STRANGER'S TOUCH』は、過去の音源を単に並べ直すのではなく、新たなコンセプトのもとに徹底的に解体・再構築することで、浅川マキの世界観を別角度から提示した、実験的かつ挑戦的な作品と言えます。
アルバムの構成とコンセプト
本作の最大の特徴は、発表時点での新曲が一切収録されていない点にあります。収録曲はすべて、それまでに発表された彼女の既存作品（アルバム収録曲や短編映画『男からの声』の音源など）を素材として、編集、再録音、リミックス、あるいはオリジナルバージョンのまま再収録といった多様な手法で再構築されています。このため、一般的なオリジナルアルバムというよりは、現在の視点ではコンセプトアルバムや企画色の強いコンピレーションアルバムに近い性格を持つ作品と言えるでしょう。帯には「一九八九・新譜」と記載されていましたが、その実態は過去の音源を用いた再構成アルバムでした。ジャケットに使用されている写真も、このアルバムのために新たに撮影されたものではなく、過去に矢頭保によって撮影された写真が用いられています。
浅川マキ自身はライナーノーツに寄せたコメントで、「このアルバムを聞き終えたとき、ちょうど１本のシネマを観たような印象を受けるのなら、私は嬉しい」と記しています。この言葉からもわかるように、本作は単なる過去曲の寄せ集めではなく、アルバム全体を通して一つのまとまった世界観、あたかも映像作品のような流れや雰囲気を創出することを目指して制作された意欲作です。
収録曲に見る多様な再構築の手法
収録曲を見ていくと、その編集・再構成の手法の多様性が際立ちます。
オリジナルバージョンの再収録
「都会に雨が降る頃」（アルバム『ONE』収録）
「男からの声」（アルバム『幻の女たち』収録）
「電文「カツテニ シテヨ」」（アルバム『幻の男たち』収録）
これらは、それぞれのオリジナルバージョンがそのまま再収録されています。
エディット・バージョン
「ピグノーズと手紙II」は、アルバム『ONE』収録の「PIGNOSEと手紙」を短くエディットし、ボーカル部分を割愛してインストゥルメンタルとハミングで構成されています。
複数の音源を組み合わせた新規構成曲
「見知らぬ人でなく」は、過去に同名の楽曲は存在しませんが新曲ではなく、トリスタン・ホンシンガーのチェロ演奏に乗せて、語りや音声劇のような形式で展開されます。この楽曲には、1987年のトリスタン・ホンシンガーのライブ音源、アルバム『幻の男たち』収録「四重奏」の語りの一部変更版、そして短編映画『男からの声』からの原田芳雄の台詞と、浅川マキの新録音の台詞を組み合わせた音声劇的なパートが含まれており、さらに既存曲「憂愁」や「夜の匂い」の詩の一部も引用されています。
再録音曲
「あいつが一番〜CHROME SITAR」は、アルバム『アメリカの夜』に収録されていた2曲を組み合わせたメドレー形式で、ハードロック調に大胆にアレンジされています。短編映画『男からの声』やライブのSEも使用されています。
「ちょっと長い関係のブルース〜今夜はおしまい」は、『マイ・マン』と『MAKI VI』にそれぞれ収録されていた2曲を繋いだメドレーで、こちらは軽快なアレンジで再録音されています。
「あの娘がくれたブルース」は、アルバム『ブルー・スピリット・ブルース』収録曲の再録音ですが、ここではバック演奏を排したアカペラ形式で、街の環境音や足音を背景に、掠れた声と口笛で囁くように歌われるという、非常に印象的なアレンジが施されています。
既存演奏のリミックス・再構築曲
「ダンサー」は、アルバム『SOME YEARS PARST』収録曲の再録音ですが、演奏はアルバム『Nothing at all to lose』録音時の別楽曲の音源がリミックスされて使用されており、オリジナルとは異なりサビ部分も語り口調で歌われています。歌詞には奈良あけみ、杉田弘子というダンサーの名前が登場します。
* 「向こう側の憂鬱III」は、過去の同名曲とは異なるインストゥルメンタル曲です。アルバム『UNDERGROUND』収録の「YS・ムーンライト」の演奏から、ドラムやギターなどを取り除き、本多俊之のサックス・ソロを前面に出して再ミックスされた楽曲で、元音源の音が微かに聞こえる箇所があります。
参加ミュージシャンとスタッフ
本作の制作には、浅川マキ（ボーカル）に加え、本多俊之（サックス、キーボード、ピアノ）、山下洋輔（ピアノ）、近藤等則（トランペット、トイズ）、下山淳（ギター）、奈良敏博（ベース）、池畑潤二（ドラム）、山内テツ（ギター）、そして海外からの参加者を含む多彩なミュージシャンがクレジットされています。特に「見知らぬ人でなく」でのトリスタン・ホンシンガー（チェロ）や、語りでの原田芳雄の参加は、このアルバムの特異性を際立たせています。
レコーディングエンジニアは、吉野金次、福田豊光、飯田益三といった名手が担当しました。また、ジャケットデザインは金沢良樹、写真は矢頭保によるものです。
その他の情報
『STRANGER'S TOUCH』は、前作『夜のカーニバル』と同様にLPレコードでの発売はされず、CDのみでのリリースでした。収録曲のうち「ちょっと長い関係のブルース〜今夜はおしまい」（Track 6）は、後にベストアルバム『DARKNESS I』にも収録されています。
このように、『STRANGER'S TOUCH』は、過去の音源を単に並べ直すのではなく、新たなコンセプトのもとに徹底的に解体・再構築することで、浅川マキの世界観を別角度から提示した、実験的かつ挑戦的な作品と言えます。
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