S/2018 J 1

S/2018 J 1 (Ersa) - 木星の第71衛星

木星の衛星の一つであるS/2018 J 1は、発見後にJupiter LXXIという確定番号を与えられ、後に「エルサ（Ersa）」という固有名で呼ばれるようになりました。この天体は、広大な木星系に存在する数多くの衛星の中で、近年その存在が明らかになった天体です。その発見と研究は、木星の衛星系の成り立ちや進化の理解を深める上で重要な意味を持っています。

特徴と軌道

S/2018 J 1は、木星の周囲を公転する衛星の中でも「順行衛星」に分類されます。これは、木星の自転方向と同じ向きに軌道を描く衛星のことです。木星の外側に位置する多くの不規則衛星が、惑星の自転とは逆向きに公転する逆行衛星であるのと対照的です。この衛星の軌道は、約30.61度という比較的大きな軌道傾斜角を持っています。

その軌道特性から、S/2018 J 1は木星の不規則衛星群の一つである「ヒマリア群」に属すると考えられています。ヒマリア群の衛星は、木星から中程度の距離を順行軌道で公転する特徴があります。これらの衛星は、かつて一つの大きな天体だったものが、木星の重力によって捕らえられた後に破壊され、その破片が現在の衛星群を形成したと考えられています。S/2018 J 1も、このような過去の衝突イベントによって生まれた可能性が指摘されています。

発見と仮符号

S/2018 J 1の発見は、2018年にスコット・S・シェパード氏が率いる観測チームによって行われました。このチームは、長年にわたり木星をはじめとする巨大惑星の新たな衛星を探査するプロジェクトを進めています。

発見に貢献した観測機器には、チリにあるマゼラン望遠鏡やセロ・トロロ汎米天文台の望遠鏡、そしてアメリカ合衆国アリゾナ州にあるローウェル天文台のディスカバリーチャンネル望遠鏡などが含まれます。これらの高性能な望遠鏡で取得された観測データから、木星の近傍に位置する微弱な光を放つ天体が、背景の恒星とは異なる固有の動きをしていることが検出され、新衛星として特定されました。

衛星の発見は、2018年7月17日に小惑星センター（MPC）が発行したサーキュラーを通じて公に報告されました。この際、新発見の慣例に従い、S/2018 J 1という仮符号が与えられました。この符号は、発見が2018年、対象天体が木星（J）、その年に木星の周りで最初に確認された衛星（1）、そして衛星（S）であることを示しています。

確定番号と命名

仮符号での報告の後、継続的な観測によってその軌道が十分に確定されると、国際天文学連合（IAU）の管轄の下で確定番号が付与されます。S/2018 J 1は、2018年9月25日に木星の第71衛星を意味する「Jupiter LXXI」という確定番号が与えられました。これにより、この天体は正式に木星の衛星として認識されることとなりました。

確定番号が付与された後、衛星に固有名を与えるプロセスが進められます。2019年2月には、IAUによってS/2018 J 1を含む複数の新しい木星衛星の名称について一般公募が行われることが発表されました。この公募には世界中から様々な候補名が寄せられ、その中から選考を経て、同年8月に「エルサ（Ersa）」という名称がS/2018 J 1の固有名として国際天文学連合に正式に承認されました。

「エルサ」という名称は、ギリシャ神話に由来するものです。エルサ（ヘルセー）は、神話に登場する露の女神であり、ギリシャ神話の最高神ゼウス（ローマ神話のユピテルに相当する木星の名の由来）と月の女神セレーネーの間に生まれた娘とされています。木星の衛星には、ゼウス（ユピテル）にゆかりのある神話上の人物や場所の名前を付けるという伝統があり、この命名もそれに則ったものです。

S/2018 J 1、Jupiter LXXI、そしてエルサ（Ersa）という名称で知られるこの天体は、木星衛星系の複雑さと多様性を示す一例です。順行軌道を周回し、ヒマリア群に属すると考えられるその特性は、今後の観測によってさらに詳細が明らかになるにつれて、木星系のダイナミックな進化史の理解に貢献することが期待されています。

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