She's Rain

『She's Rain』（シーズ・レイン）

『She's Rain』は、作家・平中悠一による長編小説です。作者がわずか17歳で執筆した記念すべきデビュー作であり、第21回（1984年度）文藝賞の佳作に選出されました。単行本は1985年1月28日に河出書房新社から刊行され、その後1990年10月には河出文庫に、1993年4月には「文藝コレクション」として新装再刊されています。本作には、『EARLY AUTUMN』という前日譚にあたる作品も存在します。

小説の概要

物語は1983年の夏、具体的には7月13日の水曜日から16日の土曜日の夜までのわずか数日間に起こった出来事に焦点を当てて綴られます。これは、主人公である17歳の高校2年生の少年が体験した、忘れられない夏の切ない記憶です。彼は、同じクラスに通う、友人ではあるが恋人とも断言できない関係性の少女に対し、意を決して想いを告白します。彼女もそれを受け入れ、二人の関係は一歩進むかに見えましたが、些細な誤解やすれ違いから、すぐに二人の心は離れ、結局別れてしまうという展開を描いています。

映画化作品

小説は、1993年に同名のタイトルで映画化されました。白羽弥仁が監督を務め、小松千春と染谷俊が主演を務めた青春・恋愛映画です。「シーズ・レイン」製作委員会によって制作され、東映アストロが配給を担当しました。この映画は、文藝賞を受賞した平中悠一の同名小説を原作としています。

映画の舞台と雰囲気

映画の舞台となるのは、大阪北部から兵庫県神戸市にかけての阪急電鉄沿線地域です。特に芦屋や夙川といったエリアは、瀟洒な住宅街が広がり、独特の雰囲気を持つ地域とされています。この地で育つ子どもたちは、一般的に中流以上の家庭環境にあり、洗練された価値観やややスノッブな傾向を持つと描かれています。映画は、こうした背景を持つ高校生たちの、少し背伸びをした恋愛模様を中心に描いています。

キャストと音楽

主要キャストには、当時人気が高まりつつあった小松千春、新進気鋭のミュージシャンであった染谷俊が起用されました。他にも、成田路実、有森也実、菊池麻衣子、さらには松岡英明や野田幹子といった、当時の著名なアーティストや俳優が出演しています。主演の小松千春と菊池麻衣子は、後にNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』で姉妹役として再共演を果たしています。

主題歌には、大江千里の「砂の城」が使用されました。これは映画公開前年の1992年にリリースされたアルバム『六甲おろしふいた』に収録されています。また、主演の染谷俊が劇中で歌う「同じ空を見てた」は、染谷自身が作詞作曲を手掛けた楽曲で、彼のアルバム『僕のたくらみ』に収められています。これらの楽曲が映画で使用されることになった背景には、プロデューサーである小谷晃一氏と、当時染谷や大江が所属していたソニーの担当ディレクターである保坂康介氏との連携がありました。保坂氏は、自身が制作に携わった楽曲を劇中で使用することを条件の一つとしたとされており、さらに原作者である平中悠一氏と大江千里氏が同じ関西学院大学出身という縁も後押しとなり、両者の起用が決定したと言われています。

ストーリーの展開

映画の物語は、大学受験を控えた高校生のユウイチとレイコの関係を中心に展開します。二人は友達以上恋人未満という曖昧な関係を続けており、共通の友人であるサーコは彼らの進展を願っています。しかし、レイコは年上の歯科医である岸本に密かに想いを寄せていました。そんな中、ユウイチの幼なじみであるユウコが帰国し、積極的にユウイチに接近したことから、レイコとユウイチの関係に微妙な変化が訪れます。さらに、ユウイチの友人タカノブがユウコに一目惚れし、あるパーティーで告白します。告白を受けて動揺したユウコが思わずユウイチに抱きついてしまう場面をレイコが目撃してしまい、二人の心は再びすれ違ってしまいます。その後、一年が経過し、レイコは東京の大学へ、ユウイチは予備校へとそれぞれの道を歩みます。一年ぶりに再会を果たしますが、お互いに恋人同士になることは叶わないことを悟る、切ない結末を迎えます。

公開後の評価と震災の影響

映画は、公開当時は一部に方言が不自然に使用されているなど、未完成に感じられる部分も指摘され、興行的には大きな成功を収めるには至りませんでした。しかし、公開から約2年後の1995年に阪神・淡路大震災が発生し、舞台となった神戸や阪急沿線地域が壊滅的な被害を受けたことで、本作は予期せぬ形で別の価値を持つことになりました。映画のほぼ全編が神戸や阪急沿線でのロケーション撮影で構成されているため、震災前の貴重な建築物や街並みが映像として記録された資料となったのです。震災から20年の節目が近づいた2014年12月18日には、こうした記録としての価値も見直され、Blu-ray Discが限定生産で発売されています。

作品には、監督の白羽弥仁自身も電車内で新聞を読む乗客としてカメオ出演しています。また、本作と同様に震災前の神戸の風景が収められた映画として、『べっぴんの町』が挙げられます。さらに、白羽監督は震災後の神戸を舞台にした映画『神戸在住』も2015年に手がけています。



本作は、青春期の淡い恋心の揺れ動きとすれ違いを描くと同時に、震災前の貴重な神戸の街並みを記録した作品として、文学的・映像資料的な価値を併せ持っています。

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