Sun386i

Sun386iは、サン・マイクロシステムズが1988年に市場へ投入した画期的なコンピュータシステムです。コードネーム「Roadrunner」と呼ばれたこのマシンは、当時の主流であったUNIX ワークステーションと、ビジネスおよびコンシューマー市場で急速に普及していたPC/AT互換機|PC_AT互換機の利点を一つに融合しようという野心的な試みでした。インテル製の高性能マイクロプロセッサであるi386を心臓部に搭載し、ワークステーションとしての堅牢なUNIX環境と、パーソナルコンピュータで動作する豊富なアプリケーション資産へのアクセスを同時に提供することを目指しました。

ハードウェアの特徴

Sun386iは、従来のSun-3シリーズが持つモジュラー構造とは異なり、PCライクなマザーボードを中心とした設計を採用し、ミニタワー型のコンパクトな筐体に収められていました。市場にはCPU速度によって20MHz版のSun386i/150と25MHz版のSun386i/250の二つのモデルが投入されました。マザーボード上には、主プロセッサであるi386に加え、浮動小数点演算を高速化する80387 FPU、システム制御を司る82380タイマ/DMA/割り込みコントローラ、そしてイーサネット接続を実現するためのカスタムIC「BABE」（Bus Adapter Between Ethernetの略称とされます）といった主要チップが配置されていました。また、データの入出力インターフェースも充実しており、フロッピーディスクドライブ、SCSIポート、シリアルポート、セントロニクス準拠のパラレルポートが標準で搭載されていました。拡張性については、PC/AT互換機|PC_AT互換機との互換性を保つためのISAスロット（8ビットが1つ、16ビットが3つ）に加え、サン独自の32ビット幅を持つ「ローカルバス」スロットが4つ備えられていました。これらのローカルバススロットは、主に高速なメモリアクセスやグラフィック処理を担うフレームバッファカードの接続に用いられました。

メモリシステムには、4MBまたは8MBのRAMを搭載した専用カードが用意されており、さらにオプションとして「XP Cache」カードを追加することで、82385キャッシュコントローラと32KBの高速SRAMによるキャッシュ機能を利用できました。XP Cacheカードは最大8MBのRAMをサポートしており、RAMカードと組み合わせて最大2枚のメモリカードを使用することで、システム全体のRAM容量を最大16MBまで拡張することが可能でした。

ストレージオプションとしては、内蔵SCSIハードディスクが91MBと327MBの容量で提供され、また1.4MB容量の3.5インチフロッピーディスクドライブが標準装備されていました。もし内蔵ストレージ容量が不足する場合でも、筐体上部に取り付けることで追加のハードディスクを2台増設できる容量拡張ボックスが提供されるなど、柔軟な構成が可能でした。

グラフィック表示に関しても多様なオプションが用意されていました。例えば、1024x768または1152x900ピクセルのモノクロ表示に対応したBW2カード、同じ解像度で8ビットカラー表示が可能なCG3カード、さらに8ビットカラーでグラフィックアクセラレータ機能を備えたCG5カードなどがありました。中でも注目すべきは「Roadracer」のコードネームでも知られるGXiフレームバッファでした。このカードはTI社のTMS34010グラフィックスプロセッサを搭載し、1152x900ピクセルの高解像度で高速なグラフィック処理を実現しました。

入力デバイスとして、Sun386iは新しいSun Type 4キーボードを初めて導入しました。このキーボードは、従来のSun Type 3配列とPC/ATキーボードの配列を組み合わせたもので、その後のSPARCstationシリーズを含むサンのワークステーションで広く採用されることになります。

ソフトウェア環境

Sun386iのシステムファームウェアは、当時のSun-3シリーズに搭載されていた「PROM Monitor」と類似した設計を持っていました。オペレーティングシステムとしては、SunOSがネイティブOSとして移植され、Sun386i向けには特にSunOSのリリース4.0、4.0.1、4.0.2が正式にサポートされました（SunOS 4.0.3のベータ版も存在しましたが、公式リリースには至りませんでした）。SunOS環境には、グラフィカルユーザーインターフェースであるSunViewが標準で含まれており、ユーザーはウィンドウシステムを利用して操作を行うことができました。

Sun386iの最も革新的な機能の一つであり、主要なセールスポイントとなったのがMS-DOSエミュレータ「VP/ix」です。これはSunOS上で動作するプロセスとして実装されており、ユーザーはUNIX環境を使いながら、同時に複数のMS-DOSセッションを立ち上げ、それぞれのセッションで異なるMS-DOSアプリケーションを実行することが可能でした。これにより、UNIXアプリケーションとMS-DOSアプリケーションの間でデータのやり取りを行うなど、当時のコンピュータ環境としては極めて先進的なマルチタスク、マルチ環境利用を実現していました。このUNIXとMS-DOSのシームレスな共存機能こそが、Sun386iのユニークな価値提案でした。

その後の展開

Sun386iの後継モデルとして、より高速な25MHzのインテル80486プロセッサと改良されたSCSIインターフェースを搭載したSun486i（コードネーム「Apache」）が設計されました。しかし、少数の試作機が製造されたものの、公式な発売には至らず、1990年にプロジェクトは中止されました。

ユニークな点

Sun386iの筐体には、開発者たちの遊び心が隠されていました。特に本体右側面のカバー内側には、マシン全体のコードネームである「Roadrunner」（ロードランナー）のロゴマークと共に、開発に携わったエンジニアたちのサインがモールドとして刻まれていました。

まとめ

Sun386iは、ワークステーションベンダーであるサンが、パーソナルコンピュータ市場の主要技術であったi386とMS-DOSを自社のUNIX環境に取り込もうとした意欲的な試みでした。特にVP/ixによるUNIX/MS-DOS同時実行機能は画期的でしたが、市場での成功は限定的でした。しかし、このマシンで導入されたSun Type 4キーボードのように、その後のサン製品に引き継がれた要素も存在します。Sun386iは、コンピュータの多様化が進む時代における、ハイブリッドシステム開発の一つのマイルストーンと言えるでしょう。

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