The Egg and Jerry

『The Egg and Jerry』は、猫のトムとネズミのジェリーを主人公とする人気アニメシリーズ『トムとジェリー』の劇場公開作品の一つです。1956年3月23日にシネマスコープという当時としては画期的なワイドスクリーン方式で公開され、多くの観客を魅了しました。

特筆すべきは、この作品が1949年公開の別のトムとジェリー作品のリメイクである点です。オリジナル作品の内容を踏襲しつつ、シネマスコープという新しい技術を取り入れることで、より迫力ある映像表現を実現しています。

このリメイクは、アニメーション制作会社であるメトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）における制作体制の変化と深い関わりがあります。1955年、長年にわたってトムとジェリーシリーズの製作に携わってきたフレッド・クインビーがMGMを退社。その後、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラという、のちに「ハンナ＝バーベラ」として名を馳せることになる二人のアニメーターが、シリーズの製作総括を引き継ぎました。

ハンナ＝バーベラは、クインビー時代の作品の中から5作品を選定し、シネマスコープでリメイクするという大掛かりなプロジェクトに着手。『The Egg and Jerry』はその第一弾として制作された作品であり、彼らがMGMで手がけた最初のトムとジェリー作品でもあります。この作品は、ハンナ＝バーベラ時代のトムとジェリー作品を代表する作品の一つとして高く評価されています。

スタッフ陣も豪華です。製作と監督はウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラ自身。音楽はスコット・ブラッドリー、アニメーションはエド・バージ、アーヴ・スペンス、レイ・パターソン、ケネス・ミューズといったベテランたちが担当しました。背景はドン・ドリスコール、レイアウトはディック・ビッケンバッハが担当するなど、それぞれの分野で第一線で活躍するスタッフによって支えられています。

さて、日本におけるこの作品の存在感は、意外にも薄いと言えます。日本の地上波テレビではこれまで放送された記録がなく、また、カートゥーン・ネットワークでも放映されていません。そのため、DVDなどにも収録されておらず、日本の視聴者はこの作品に触れる機会がほとんどありませんでした。ただし、『ジェリーとたまご』という邦題で放送されている作品がある場合がありますが、それはこのリメイク版ではなく、オリジナルの1949年作品の方である可能性が高いです。このように、日本においては、公開当時から現在に至るまで、この『The Egg and Jerry』は、知る人ぞ知る作品として存在感を保っていると言えるでしょう。

『The Egg and Jerry』は、アニメーション史における技術革新と制作体制の変遷、そして日本における放送事情という複数の要素が絡み合う、興味深い作品です。シネマスコープという新たな技術と、ハンナ＝バーベラの才能が融合したこの作品は、アニメーションファンにとって、これからも貴重な資料として、そして議論の対象として存在し続けることでしょう。

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