The Saboteur

The Saboteur：レジスタンスの戦火と、失われた開発スタジオの物語

2009年、エレクトロニック・アーツより発売された『The Saboteur（ザ・サボチュア）』は、第二次世界大戦下のフランスを舞台にした、オープンワールド型サードパーソンアクションゲームです。開発を手掛けたのは、本作を最後に解散することになるパンデミックスタジオ。その歴史的背景とゲームシステム、そして開発秘話まで含めて、本作の魅力に迫ります。

ストーリー：復讐とレジスタンスの狭間で

主人公ショーン・デブリンは、アイルランド出身のレーシングドライバー兼メカニック。1940年、フランスで開催されたレース中に、ドイツ人レーサーの妨害により、悲劇的な出来事に巻き込まれます。親友を殺害されたショーンは、復讐を誓い、レジスタンス運動に身を投じることを決意します。

物語は、ドイツ軍占領下のフランス、特にパリを舞台に展開。ショーンは元作家でレジスタンス指導者であるルークや、イギリス特殊作戦執行部（SOE）の協力を得ながら、様々な破壊工作や諜報活動を行います。ドイツ軍の主要施設への攻撃や、情報収集、さらには敵将への復讐と、ショーンの行動は物語を大きく動かしていきます。その過程で、ショーンはレジスタンス仲間との絆を深め、占領下のパリ市民たちの苦悩や抵抗を肌で感じ取っていくのです。

システム：彩りを取り戻す街と、危険な影

本作の最大の特徴は、オープンワールドとして再現されたパリの街並みです。ドイツ軍の占領によって、街の多くは白黒のモノクロで表現されており、その暗く、重苦しい雰囲気が、占領下の状況を鮮やかに描き出しています。しかし、ショーンがレジスタンス活動を通じてドイツ軍の拠点を解放していくと、そのエリアは次第にカラーへと変化し、鮮やかな色彩を取り戻していきます。この「Will to Fight（戦う意思）」システムは、占領下のパリの現実と、レジスタンスの活動による変化を視覚的に表現する、革新的な試みと言えるでしょう。

ゲームプレイは、自由度の高い探索と、多様なアクションが特徴です。建物の屋上を駆け巡ったり、電線をつたって移動するなど、アクロバティックな動きも可能です。また、ドイツ兵から軍服を奪って変装するなど、戦略的な要素も含まれています。一方で、不審な行動を取るとドイツ兵に発見され、指名手配される危険性も。警戒レベルは円形で表示され、緊張感あふれる状況がプレイヤーを待ち受けています。

開発：歴史にインスパイアされた、独自の表現

本作の開発には、興味深いエピソードが隠されています。開発チームは、歴史的事実に忠実に再現するのではなく、「歴史に触発された」表現を心掛けたといいます。そのため、時代考証に反する描写も含まれており、その独自の解釈が、従来の戦争ゲームとは一線を画す世界観を作り出しています。

主人公ショーン・デブリンのモデルは、実在したSOEのエージェントであるウィリアム・グローバー＝ウィリアムズ。インディアナ・ジョーンズやジョン・マクレーンといった現代のアクションヒーロー像も参考にしつつ、スティーブ・マックイーンのようなクールな魅力を融合させたキャラクター造形となっています。開発チームは、本作の世界観を「『インディ・ジョーンズ』の世界の『ダイ・ハード』ヒーロー」と表現していました。

発売とその後：最後の作品、そしてiOS版

発売と同時に配信されたDLC『The Midnight Show』では、新エリアやミニゲームが追加されました。しかし、女性キャラクターのヌード描写を巡る議論も起こり、性表現の扱いをめぐる問題が浮上しました。これは、当時EAの他のタイトルでも発生していた問題でもありました。

そして、本作はパンデミックスタジオにとって最後の作品となりました。開発途中でスタジオが解散され、EA Los Angelesに吸収されたためです。その後、iOS版もリリースされましたが、PC/PS3/Xbox 360版とは大きく異なる2Dアクションゲームとして制作されました。

評価：賛否両論、そして開発スタジオの終焉

レビューサイトMetacriticでは、PC版は概ね好評、PS3版とXbox 360版は賛否両論、iOS版は概ね不評という結果に。商業的な成功という点では、必ずしも成功したとは言えないでしょう。しかし、独特の世界観、革新的なゲームシステム、そして開発チームの情熱が込められた本作は、ゲーム史に一つの足跡を残した作品と言えるでしょう。そして同時に、時代の流れの中で消え去った開発スタジオの物語も、本作を語る上で重要な要素と言えるのではないでしょうか。

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