UKガラージ

UKガラージとは

UKガラージは、1990年代初頭から中期にかけてイギリスで生まれたエレクトロニック・ミュージックのジャンルです。アメリカ産のソウルフルなハウスミュージック、特にダブバージョンを高速で再生したサウンドが起源とされ、R&B、ジャングル、ダンスポップなど多様な要素が融合しています。パーカッシブなリズムとボーカルサンプルが特徴で、130BPM前後のテンポで展開されます。

起源

UKガラージは、1990年代初頭から中期にかけて、ハウスミュージックがイギリスで進化した結果として誕生しました。アメリカのディスコ「パラダイス・ガレージ」のDJたちが作り出したサウンドが基盤となり、スピードガラージというスタイルが生まれました。その先駆者の一人に、アメリカのDJ、トッド・エドワーズがいます。彼はソウルフルでタイムシフトやボーカルサンプルを多用したハウスを制作し、それが北ロンドンのDJ EZによってテンポアップされ、UKガラージの基礎を築きました。

スピードガラージという名称が広まる前は、アンダーグラウンド・ガラージという言葉が使われていました。一説には、1995年にアメリカのDJ、トッド・テリーがイギリスのクラブを訪れた際に「スピードガラージ」という言葉が生まれたとされています。しかし、この言葉はメディアによって作られたもので、DJ自身が使うことは少なかったとされています。1998年頃には、UKガラージという名称が定着し、2ステップというスタイルも認知されるようになりました。

ジャングルとの関係

1990年代初頭のイギリスでは、ジャングルが人気を博していました。ジャングルイベントのセカンドルームでは、アメリカ産のソウルフルなハウスやガラージがプレイされていました。しかし、ジャングルがテックステップの影響を受け、サウンドが過激になるにつれ、ダンスフロアから人が離れていくようになりました。そこで、DJたちはガラージトラックを130BPMにテンポアップしてプレイするようになり、この変化がスピードガラージという新たなスタイルを生み出しました。メディアは、このテンポアップされたガラージミュージックを「スピードガラージ」と呼び始めました。ボーカルの少ないダブバージョンが好んで使われたのは、テンポを変えるとボーカルの音質が悪くなるからでした。

MCの役割

MCはスピードガラージ、ひいてはUKガラージのパーティーや作品において重要な存在となりました。ドリーム・チームやタフ・ジャムといったアーティスト、そしてロンドン・アンダーグラウンドやマジックFMといった海賊ラジオ局がスピードガラージを広めました。初期のスピードガラージシーンは「ザ・サンデー・シーン」とも呼ばれていました。これは、日曜の夕方しか会場を借りられなかったからです。コンフェティ、パブリック・デマンド、500レコーズ、スプレッド・ラヴ、VIPといったレーベルが、スピードガラージの作品をリリースしていました。

スピードガラージの特徴

スピードガラージには、サブベースの帯域で演奏されるベースライン、ラガ風のボーカル、バックスピン、ドラムサウンドの逆再生など、今日のUKガラージサウンドの要素が既に含まれていました。2ステップサウンドが浮上するにつれ、R&Bスタイルのボーカル、よりシャッフルを効かせたビート、多様なドラムパターンなど、よりファンキーな要素が加わりました。スピードガラージから2ステップへの最も大きな変化は、各小節の2番目と4番目のキックドラムを無くしたことです。4つ打ちのビートからキックドラムを間引くことで、リズムが倍に引き伸ばされたように聞こえますが、シンコペーションを用いたベースラインやパーカッションのような音作りでリスナーを飽きさせません。

スピードガラージのトラックは、テンポを上げたハウススタイルのビート、スネアドラムの連打、逆再生風のニュアンスや湾曲的なピッチ変化を付けたベースラインが特徴です。トッド・エドワーズはボーカルを楽器のように扱い、サンプリング技術でボーカルフレーズを切り貼りし、逆再生やピッチ変更を施しました。このボーカルの扱いは、UKガラージの大きな特徴となりました。アーマンド・ヴァン・ヘルデンの「スピン・スピン・シュガー」のリミックスは、スピードガラージというジャンルを広めました。ダブル99や187ロックダウンといったアーティストが1997年にクラブヒットを生み出し、全英トップ20入りを果たしました。

2ステップの登場

最初の2ステップの例として、ティナ・ムーアの「ネヴァー・ゴナ・レット・ユー・ゴー」のリミックスが挙げられます。ロイ・デイヴィス・ジュニアの「ガブリエル」もUKガラージシーンに影響を与えました。ウーマック&ウーマックの「ティアドロップス」のカバーや、シャンクス&ビッグフットの「ストレート・フロム・ザ・ハート」なども人気を博しました。特に「スウィート・ライク・チョコレート」は1位を獲得しました。

アメリカからの影響

アメリカのR&Bプロデューサー、ティンバランドは当時のR&Bに大きな革新をもたらし、イギリスのレイヴカルチャーに影響を与えました。リズムパターンをメロディのように聴かせる手法は、R&Bとジャングルに共通しており、UKガラージシーンにも響きました。ティンバランドスタイルのR&Bは、グルーヴの崩壊、躊躇、空白といった「ブレイクビーツの美学」を持っています。この影響はUKガラージにも見られますが、ドラムビートはより複雑で強いスウィングがあり、テンポも速くエネルギッシュです。

UKガラージのプロデューサーたちは、アメリカのR&Bヒットのイギリス版を量産しました。ブランディとモニカの「ザ・ボーイ・イズ・マイン」のリミックスは、ブートレグで2万枚を売り上げました。オートチューンなどを用いてボーカルをデジタル的に変化させる技術もアメリカから取り入れられました。

海賊ラジオとチャートでの成功

リンスFM、アイスFM、デジャヴュ、フレックスFMといった海賊ラジオ局の支援により、1999年、UKガラージの人気は高まり、メインストリームの音楽チャートに登場するようになりました。シャンクス&ビッグフットの「スウィート・ライク・チョコレート」や、アートフル・ドジャーの「リ・リワインド」は大きな成功を収めました。これらの楽曲は2ステップシーンのアンセムとなり、トップ・オブ・ザ・ポップスで放送されました。

1999年には他にも、アーマンド・ヴァン・ヘルデンの「ユー・ドント・ノウ・ミー」、ミスター・オワゾの「フラット・ビート」などがヒットしました。また、ダ・クリックの「グッド・ライムズ」、ドリーム・チームの「バディX 99」、DJラック&MCニートの「ア・リトル・ビット・オブ・ラック」などもチャートを賑わせました。

2000年に入ると、クレイグ・デイヴィッドの「フィル・ミー・イン」、オキサイド&ニュートリノの「バウンド・フォー・ダ・リロード」などが1位を獲得しました。他にも、アートフル・ドジャー、スウィート・フィメール・アティチュード、トゥルー・ステッパーズ、MJコール、ウーキーなど、多くのUKガラージアーティストがチャートインしました。

2001年のヒット曲

2001年には、DJパイド・パイパー・アンド・ザ・マスターズ・オブ・セレモニーズの「ドゥー・ユー・リアリー・ライク・イット?」がナンバー1ヒットとなりました。ソー・ソリッド・クルーの「21セカンズ」も1位を獲得し、ダニエル・ベディングフィールドの「ガッタ・ゲット・スルー・ディス」も全英トップとなりました。

ミスティーク、アートフル・ドジャー、リバティー、スティッキー、オキサイド&ニュートリノ、DJラック&MCニート、ザ・ストリーツ、ワイドボーイズ、ソー・ソリッド・クルーなど、多くのアーティストがチャートを賑わせました。

2ステップからグライムへ

2002年、2ステップはファンキーでソウルフルなサウンドから、グライムと呼ばれるダークなサウンドへと移行しました。グライムは現在、独立したジャンルとして存在しています。

ソー・ソリッド・クルーのメンバーを取り巻く暴力事件やジャンルの悪評から、UKガラージはアンダーグラウンドへと後退しました。しかし、2002年から2004年にかけてもいくつかのUKガラージの楽曲がチャートに登場しました。

初期のグライムアーティストとしては、ラフ・スクワッド、モア・ファイア・クルー、ディジー・ラスカル、ロール・ディープ、ワイリーなどが有名です。

当時のUKガラージシーンは、階級的な区分けが明確でした。クラブではドレスコードが厳しく守られ、良い服装がステータスとなりました。しかし、ソー・ソリッド・クルーなどがローワー・クラスのオーディエンスをレイヴに引き込むようになると、UKガラージは以前のオーディエンスから離れていき、グライムへと移行していきました。

UKガラージの復興

2007年、一部のDJがUKガラージの復権を進め、プロデューサーたちは「ニュースクール」UKガラージ、あるいは「ベースライン・ハウス」と呼ばれる新しいスタイルを生み出しました。T2の「ハートブロークン」やH“トゥー”Oの「ホワッツ・イット・ゴナ・ビー」といった「ニュースクール」UKガラージトラックがチャート入りし、UKガラージはメインストリームに再進出しました。DJ EZのコンピレーションアルバム「ピュア・ガラージ・リワインド」も復興を後押ししました。

2011年初頭には、2ステップガラージが再び注目を集め始めました。ウーキー、MJコール、ゼッド・バイアス、マーク・ヒルなどのプロデューサーが復帰し、2ステップ感の強いトラックを制作しました。ディスクロージャーやアルーナジョージといったエレクトロニック・ミュージック・デュオも、UKガラージの要素を取り入れた作品を発表しました。

この頃には、オリジナルのUKガラージが再登場し、ムーニー、DJD、タフ・カルチャーといったプロデューサーが活躍しました。アイス・クリーム・レコーズといったレーベルが復活し、新たなDJを迎えました。

ディスクロージャーやShift K3Yなどが、スピードガラージやベースラインのスタイルを保ちつつ、ハウスのテンポまで落とした楽曲を発表し、「ディープ・ハウス」と呼ばれるようになりました。このUKガラージの復活は、ベース・ハウスやフューチャー・ハウスといった新たなジャンルを生み出すきっかけとなりました。

UKガラージから生まれたジャンル

UKガラージからは、ダブステップやUKファンキーといったジャンルが生まれました。ダブステップは2ステップガラージのダークなスタイルが発展したものです。UKファンキーは、ソウルフル・ハウス、UKガラージ、アフロビート、ソカの要素を融合させたサウンドです。フューチャー・ガラージは、ダブステップの現代的な派生であり、UKガラージの影響を強く受けています。

UKガラージは、その変遷の中で多くの音楽ジャンルに影響を与え、常に進化を続ける音楽です。

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