UK-T6

UK-T6は、英国のテクノロジー企業であるキネティック社（QinetiQ）が開発・製造を手掛ける、人工衛星や探査機向けの電気推進システム、具体的には高性能なイオンエンジンの一種です。

概要と開発背景

このエンジンは、主に静止軌道を周回する通信衛星などの南北方向の軌道位置を正確に維持するための制御、あるいは衛星の軌道を変更する操作、そしてミッション期間を終えた衛星を安全な軌道（例えば墓場軌道）へ移動させる目的で設計されました。カウフマン型と呼ばれるタイプのイオンエンジンであり、推進剤としてキセノンガスを使用します。

UK-T6は、キネティック社が先に開発したUK-T5エンジンの後継・改良型にあたります。UK-T5の設計を基に、推進剤を加速・噴射するグリッドの直径を大きくすることで、エンジンの出力である推力と、燃料効率を示す比推力の両方の性能を高めています。これにより、より長期間のミッションや、より大きなペイロードの搭載に貢献できるようになりました。

特徴と仕様

UK-T6の推進原理は、電気エネルギーを使って推進剤のキセノン原子をイオン化し、そのイオンを電場で高速に加速・噴射することで反作用としての推力を得るというものです。化学ロケットに比べて推力は小さいものの、圧倒的に高い比推力、すなわち少ない推進剤で長時間にわたって加速を続けられるという特長を持ちます。

具体的な性能仕様は以下の通りです。

タイプ: カウフマン型イオンエンジン
推進剤: キセノン
エンジン質量: 約7.5キログラム
推力: 30ミリニュートンから230ミリニュートンまで調整可能
比推力: 4,000秒から4,700秒の範囲
グリッド径: 220ミリメートル

特に高い比推力性能は、衛星の運用寿命を伸ばしたり、打ち上げ時に搭載できる推進剤の量を減らして代わりにペイロード（通信機器など）を多く積めるようにしたりといったメリットをもたらします。

主な採用事例

UK-T6は、その信頼性と優れた性能から、複数の重要な宇宙ミッションや衛星プラットフォームに採用されています。

アルファサットI-XL: 欧州の通信衛星運用会社インマルサットの次世代静止通信衛星として開発されたこの大型衛星には、軌道維持などの目的でUK-T6が搭載されています。2012年に打ち上げられました。
ベピ・コロンボ: 欧州宇宙機関（ESA）と日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）による共同の水星探査計画における探査機です。特に、水星への長大な航行と軌道投入フェーズを担当する水星輸送モジュール（MTM）には、合計5機のUK-T6が搭載され、主要な推進力源として使用されました。2016年に打ち上げられています。
* AlphaBus: EADS アストリアム（後にエアバス・ディフェンス・アンド・スペースに統合）とタレス・アレーニア・スペースが共同で開発・製造する、大型静止衛星向けの標準プラットフォーム（衛星バス）です。AlphaBusはUK-T6を標準的な電気推進システムとして採用しており、このバスを利用する多くの静止衛星でUK-T6が使われる基盤となっています。

関連事項

UK-T6は、広範な「電気推進」技術や「イオンエンジン」技術の一環として位置づけられます。キネティック社のイオンエンジン製品ファミリーには、UK-10のような他のモデルも存在します。AlphaBusの開発に関与したエアバス・グループは、UK-T6の主要な顧客および技術パートナーの一つと言えます。これらの技術や企業との連携により、UK-T6は現代の宇宙開発における重要な推進システムの一つとなっています。

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