UPS航空6便墜落事故

UPS航空6便墜落事故：貨物火災と安全対策の教訓

2010年9月3日、アラブ首長国連邦ドバイ国際空港を離陸したUPS航空6便（ボーイング747-44AF型機、機体記号N571UP）は、ドイツ・ケルン・ボン空港に向かう途中、悲劇的な事故に見舞われました。ドバイ上空を飛行中、貨物室で発生した火災がコックピットにまで広がり、操縦不能に陥った機体はドバイ近郊の砂漠地帯に墜落。乗員2名（機長48歳、副操縦士38歳）は命を落としました。UPS航空にとって初めての重大事故であり、世界に衝撃を与えました。

事故の経緯

事故当日、副操縦士が操縦を担当。離陸後、空調装置の故障とそれに続く貨物室火災警報がパイロットに表示されました。コックピットには急速に煙が充満し、視界不良、酸素マスク故障といった深刻な事態に陥りました。パイロットらはドバイ空港への緊急着陸を試みましたが、煙と火災による機体の損傷が深刻化し、操縦不能に陥った機体は空港に到達する前に墜落しました。

事故原因

UAEの総合民間航空局（GCAA）による徹底的な調査の結果、事故原因は貨物室に搭載されていた8万個を超えるリチウムイオン二次電池の発火と断定されました。この電池は危険物扱いされるにも関わらず、適切な申請なしに搭載されていました。発火したリチウムイオン電池は、機体に搭載されたハロン1301消火剤では消火困難であり、減圧処置も効果が限定的だったことも判明しました。さらに、空調装置の故障により、貨物室の煙がコックピットに流れ込んだことも、パイロットの対応を困難なものにした要因の一つです。

事故調査と安全対策

事故調査では、フライトデータレコーダーとコックピットボイスレコーダーの分析、関係者への聞き取り調査などが行われました。NTSB（米国国家運輸安全委員会）も調査に協力し、最終報告書は2013年6月に発表されました。

報告書を受け、航空業界では安全対策強化の動きが加速しました。FAA（連邦航空局）はリチウムイオン電池の航空輸送に関する規制を強化し、ボーイング社は747-400F型機の火災チェックリストを改訂。UPS航空自身も、コックピットの酸素マスクの改良、煙侵入防止のためのエアバッグ設置など、自主的な安全対策を実施しました。リチウムイオン電池の空輸に関するIATA危険物規則書も改訂され、より厳格な基準が適用されることになりました。

教訓と今後の課題

UPS航空6便墜落事故は、リチウムイオン電池の危険性、航空機の貨物室火災対策の必要性、コックピット乗員への煙の影響軽減策の重要性を改めて浮き彫りにしました。事故調査で明らかになった問題点への対策は着実に進められていますが、航空輸送における安全確保は、技術革新や規制強化といった継続的な努力が不可欠です。今後、新たな危険物の出現や航空機の高度化に伴い、より高度な安全対策の検討、さらなる技術開発が求められるでしょう。

関連事故

この事故と同様に、リチウムイオン電池を原因とする航空機火災事故は、その後も世界各地で発生しています。これらの事故は、航空安全の向上に向けて、国際的な連携と継続的な努力の重要性を改めて示しています。

参考文献

アラブ首長国連邦民間航空局による事故調査最終報告書
Aviation Safety Networkによる事故概要

もう一度検索