VIC-1001

概要

VIC-1001は、1980年12月にコモドールジャパンより発売された8ビットの家庭用パーソナルコンピューターです。海外市場では「VIC-20」の名称で、同年6月に先行してリリースされました。コモドール初のパーソナルコンピューターであるPET 2001の登場から約3年後に開発され、同社の後の主力機であるコモドール64などにも通じるデザインを採用しています。CPUにはモステクノロジー製の6502マイクロプロセッサーを搭載し、RAM容量は5Kバイトでした。

開発背景と市場戦略

本機は、先行機のPETよりも手頃な価格帯の普及機として企画されました。開発の背景には、モステクノロジー社が開発したビデオインターフェースチップ（VIC）と、コモドールが抱えていた1KビットSRAMチップの過剰在庫がありました。コモドールはこれらの在庫を有効活用するため、1980年4月、300USドル以下で販売可能なコンピューターの開発に着手。これがVIC-20として結実しました。

PETが専門ディーラー経由で販売されたのに対し、VIC-20は一般の流通ルート、特にディスカウントストアや玩具店などでも取り扱われ、ゲーム機と直接競合する販売戦略が採られました。コモドールは著名俳優ウィリアム・シャトナーを広告に起用し、「なぜ、ただのビデオゲームを買うだけにするのか？」と問いかける印象的なCMを展開しました。

世界的な成功と生産

その性能面では厳しい評価を受けることもありましたが、シャトナー氏を起用した積極的な宣伝が功を奏し、販売数を大きく伸ばしました。VIC-20は、世界で初めて累計出荷台数100万台を突破したパーソナルコンピューターとなり、特に1982年には最も販売された機種となりました。この成功を受け、日本では1982年5月から製造終了の1985年1月まで、フォスター電機が生産を担いました。最盛期には1日に9,000台が製造され、最終的に全世界で250万台以上が出荷されました。VIC-20の成功は、コモドールがその後、コモドール64などの後継機種を市場に投入していく足がかりとなりました。

ソフトウェア

RAM容量が限られ、ディスプレイ解像度も低いことから、教育用途やゲームで主に利用されました。しかし、家計簿や表計算、通信といった実用的なソフトウェアも開発されています。また、いくつかの専門雑誌が刊行され、ユーザー間で情報交換やプログラムリストの共有が盛んに行われました。

プログラミングの容易さと手頃な価格のモデムが接続できたことにより、パブリックドメインやフリーウェアのソフトウェアライブラリが形成され、CompuServeやBBSなどを通じて広く普及しました。市販ソフトウェアに関しては、日本ではコモドールジャパンから約20タイトルが供給されたにとどまりましたが、米国ではカートリッジ版が約300タイトル、カセットテープ版が500タイトル以上発売されました。

日本市場での展開と終焉

VIC-1001は、コモドールが初めて日本国内で企画・開発・製造を行ったコンピューターとされています。1980年12月に69,800円で発売。搭載RAMは5KBでしたが、低価格ながらカラーグラフィック機能や3チャンネルのサウンドを備え、RFモジュレーター同梱により家庭用テレビに簡単に接続できたため、黎明期のパソコン市場で一定の支持を獲得しました。

当時の同価格帯の機種が安価なキースイッチを採用する中、VIC-1001はしっかりとしたフルストロークの本格的なキーボードを搭載しており、この点は高く評価されました。中学や高校での教材としても導入されるケースがありました。

しかし、翌1981年11月にNECがPC-6001を発売すると状況は変化します。PC-6001は89,800円と価格差がありましたが、VIC-1001はRAM拡張が必須となる場面が多く、実質的な価格差は縮小しました。また、VIC-1001でグラフィックやサウンドを扱うには特定の命令や拡張BASICが必要でしたが、PC-6001は標準で豊富なBASICコマンドを備え、初心者には扱いやすかったのです。PC-6001はホビー向け機能を強化し、強力な販売網も活用して、VIC-1001から瞬く間に市場シェアを奪いました。

後に価格は49,800円に値下げされましたが、当時の日本市場はゲームプログラムの入手に市販ソフトや雑誌リストが重要でした。国内機が豊富なソフト資産を持つのに対し、VIC-1001は国内向け市販ゲームが限られていたため、シェア回復は困難でした。

1982年末には、コモドールジャパンから互換性のない後継機種、高性能なコモドール64とゲーム特化型MAX MACHINEが登場。両機種はゲームカートリッジに互換性があり、これによりVIC-1001は商業的な役割を終えることとなりました。

当時コモドールブランドのゲーム開発を下請けしたHAL研究所には、後に任天堂社長となる岩田聡氏が学生アルバイトながらメインプログラマーとして参加していました。

主なハードウェア仕様

CPU: MOS 6502A (1.0227MHz)
RAM: 5KB (最大32KBまで拡張可能)
ROM: 20KB (最大32KBまで拡張可能)
表示: テキスト 22×23文字、グラフィック 176×184ドットなど。色数や解像度を設定可能。
サウンド: サウンドジェネレーター×3、ノイズジェネレーター×1。
内蔵ソフトウェア: BASIC、OS
キーボード: フルストローク、66キー + 4機能キー。
外部インターフェイス: メモリー・エクスパンション・バス、カセット、シリアル、ユーザー、コントロールポートなど。

主な周辺機器

エクスパンション・モジュール（カートリッジスロット増設）
RAM拡張カートリッジ
スーパー・エクスパンダー・カートリッジ（拡張BASIC）
ジョイ・スティック
カセット・ドライブ、フロッピー・ディスク・ドライブ
VICMODEM（モデムカートリッジ）
* モニター、プリンター

その他

国外版と国内版のスーパーエクスパンダーは互換性がありませんでした。RAM拡張には一部制約がありました。

リーナス・トーバルズ氏が初めて手にしたコンピューターとしても知られています。当時の多くの海外製コンピューターと同様、日本の夏には熱暴走しやすい問題があり、改造して冷却対策を行うユーザーもいました。電磁波シールドが不十分で、テレビやラジオにノイズが乗ることもありました。

本体にRESETスイッチがなく、暴走時は電源を入れ直すのが基本でしたが、改造によりRESETスイッチを追加するユーザーも存在しました。

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