WD 1856+534 b

WD 1856+534 bは、地球からおよそ80光年（約24.75パーセク）離れた、りゅう座の方向にある太陽系外惑星です。この惑星は、その名の通り、白色矮星WD 1856+534の周囲を周回しています。

この惑星の発見は2020年に発表されました。主にスピッツァー宇宙望遠鏡と、ケプラー宇宙望遠鏡の後継機であるトランジット系外惑星探索衛星TESSの観測データが用いられています。TESSは、恒星の前を惑星が通過（トランジット）する際に生じるわずかな明るさの変化を捉えることで惑星を発見する手法を採用しており、WD 1856+534 bもこの方法で検出されました。TESSの観測対象であったことから、この惑星はTOI-1690.01という名称でも呼ばれています。

WD 1856+534 bは、物理的な特徴として、半径が木星の約0.928倍と、ほぼ木星に近いサイズを持っています。質量については、詳細な測定は難しいものの、木星の14倍以下であると推定されています。特筆すべきはその公転周期で、わずか約1.4日（約34時間）という非常に短い時間で主星の周りを一周しています。また、主星である白色矮星WD 1856+534と比較すると、惑星の方が約7倍も大きいという興味深い関係にあります。

この惑星の発見がなぜ重要視されるかというと、白色矮星の周りでこのようなサイズの惑星が発見されたのは初めてだからです。これまでに白色矮星の周囲では、主星の強い重力によって破壊されたと思われる小惑星や彗星の破片のようなものが観測されていましたが、完全な形を保った惑星、しかも木星に匹敵する巨大ガス惑星が見つかったことは、系外惑星科学において大きな出来事でした。

WD 1856+534 bの存在は、主星であるWD 1856+534の進化を考えると、いくつかの謎を投げかけています。白色矮星は、太陽のような恒星が一生の最後に赤色巨星へと膨張し、その後、外層のガスを放出して残った高温・高密度の中心核です。恒星が赤色巨星に膨張する際、その近くを公転していた惑星は、主星に飲み込まれて消滅してしまうのが一般的です。WD 1856+534 bがこの運命を免れたとすれば、主星が赤色巨星だった時代には、現在よりもはるかに遠い、少なくとも1天文単位（地球と太陽の間の距離）以上離れた軌道を公転していた必要があります。

しかし、現在のWD 1856+534 bの軌道は主星に非常に近く、その距離から考えると、元々遠方にいた惑星が主星が白色矮星になった後に何らかの理由で現在の軌道へと移動してきた可能性が高いと考えられています。この移動メカニズムについても議論があり、特に現在の軌道が安定していることが疑問視されています。主星にこれほど近いと、白色矮星の強力な潮汐力によって惑星が破壊されてしまう危険があるためです。なぜこの惑星が破壊されずに現在の軌道に落ち着いたのかは、まだ明確な答えが出ていません。

この発見を報告した研究チームの一員であるアンドリュー・ヴァンダーバーグらは、この謎を説明するための一つの可能性として、WD 1856+534 bが元々多惑星系の一部であり、他の惑星との重力的な相互作用によって、現在の主星に近い軌道へと弾き出されたという説を提唱しています。これは、太陽系内の木星や土星のような巨大惑星が、他の天体の軌道に大きな影響を与える現象に似たメカニズムが働いたことを示唆しています。

WD 1856+534 bは、白色矮星の周りを公転する惑星系の形成や進化の過程について、これまでの常識を覆す可能性を持つ貴重な事例として、今後の詳しい観測や研究が待たれています。その存在は、恒星の終末期を生き延びる惑星系の多様性を示唆しており、宇宙における生命の可能性を探る上でも、新たな視点を提供してくれるかもしれません。

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