Wireless Application Protocol

Wireless Application Protocol (WAP) について

Wireless Application Protocol（WAP）は、携帯電話などのモバイルデバイスでインターネットサービスを利用するための技術仕様です。かつては業界標準が存在しなかった携帯電話インターネットの世界において、WAPは重要な役割を果たしました。

WAP 1.x の課題

WAP 1.x では、コンテンツ記述言語としてWireless Markup Language (WML) が採用されました。しかし、WMLはインターネット標準のHTMLとの互換性がなく、コンテンツ作成にはWML専用のツールが必要でした。また、当時の通信環境は9.6kbpsのCSD接続が主流で、パケット通信は一般的ではありませんでした。そのため、コンテンツはテキスト中心で、表示もモノクロ液晶が主流でした。これらの制約から、コンテンツの充実度は低く、オペレーターによる閲覧制限もあり、世界的に普及は限定的でした。

日本では、IDO/DDIセルラーグループ（後のau）がPDCを廃止してCDMAを採用した際、WAPも採用しました。一方、NTTドコモはWAPではなく、Compact HTMLをベースにした独自のiモードを主要機種に搭載しました。ただし、一部の端末（例：JRAの電話投票用端末「モバイルゲット」）ではWAPが搭載されていました。

WAP技術の標準化・推進はWAP Forumが行っていましたが、2002年6月には他の標準化団体とともにOpen Mobile Alliance (OMA) に統合され、発展的に解消しました。

WAP 2.0 の進化

その後、GPRS、EDGE、第三世代携帯電話などのパケット通信が普及し、液晶のカラー化やカメラ搭載が進み、携帯電話でのインターネット利用環境が整いました。

WAP 2.0では、WAP 1.xの課題を克服するため、インターネット標準の技術が大幅に採用されました。コンテンツ記述言語としては、従来のWMLに加え、XHTML MPとcHTMLが併記され、トランスポートプロトコルには、従来のWTP/WSPだけでなくTCP/IPも採用されました。これにより、コンテンツの利用拡大が期待されました。しかし、現在では、WAP 1.x時代の標準であったWML、WTP、WSPはcHTMLとともに、その存在感を失いつつあります。

過去には、携帯電話によるブラウジングとメッセージングは、WAP Forumの後継団体であるOMAが制定したものが業界標準でした。特に国際的には、多くの携帯電話がOMAの仕様に基づいた実装をしていました。しかし、通信速度の向上や、iPhoneやAndroidといったオープンプラットフォームの登場により、OMAの仕様自体が重要性を失い、WAPは過去の技術となりました。

写メールやiショットなどの日本発のピクチャーメール規格は、国際標準にはなりませんでした。業界標準のマルチメディア携帯メール規格は、WAP Forumが採用したマルチメディアメッセージングサービス (MMS) です。

WAPプッシュ

WAP 1.2から導入されたWAPプッシュは、サービスプロバイダによる配信サービスを可能にする技術です。WAPプッシュのメッセージタイプには、SL (Service Loading)、SI (Service Indication)、CO (Cache Operation) の3種類があります。当初は、ネットワークが混雑しない時間帯に配信したり、天気予報の更新などに利用することが想定されていましたが、消費者の通信費に対する懸念などから、広く普及することはありませんでした。

プロトコル設計の教訓

WAPプロトコル設計の妥当性は、当初から議論の的でした。WAP 1.xでは、低速で遅延の大きい携帯電話ネットワーク向けに最適化するため、WTP、WSP、WTLSなどのプロトコルがIP層の上に配置されました。これらのプロトコルは携帯電話の世界でのみ利用され、TCP/IPの対応するプロトコルと比較して複雑でした。このため、特にインターネット側からの批判が多数ありました。

WAP 2.0では、TCPをトランスポートプロトコルとして併記することで、この論争に終止符が打たれました。WAP 2.0でのTCP採用時には、有線と無線をプロキシサーバで分割するという考えに基づいて、Wireless Profiled TCPという概念も導入されました。

品質の異なるネットワーク間（例えば、無線と有線）を中継する場合には、再送セグメントの分割を行うことで効率化を図る技術も採用されています（例：w-TCP/WAP2.0、split-TCP [RFC 2757]）。

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