PDC

PDC：日本のローカル規格として栄えた携帯電話通信方式

PDC（Personal Digital Cellular）は、かつて日本で利用されていた、FDD-TDMA方式を採用した第二世代移動通信システムです。1991年に電波システム開発センター（現：電波産業会）が標準規格RCR-STD-27を策定し、当初はJDC（Japan Digital Cellular）と呼ばれていました。その後、NTTドコモが800MHz帯でmovaサービスを開始したのを皮切りに、デジタルホン、IDO/DDIセルラーグループ、ツーカーグループなど複数のキャリアがPDCを採用し、日本国内で広く普及しました。ピーク時には数百万人の利用者を数え、日本の携帯電話の歴史において重要な役割を果たしました。しかし、3Gへの移行に伴い、2012年3月31日に全てのサービスが終了しました。

開発の背景とローカル規格への道

PDC開発の背景には、当時の国際標準規格であるGSMの次の世代規格の遅れがありました。NTTドコモは、NTT法による海外進出規制の影響もあり、独自の規格開発を当初は予定していませんでした。しかし、効率性の高いデジタル規格の必要性から、PDCを開発せざるを得ない状況になったのです。海外展開を意図せず、特許の利用許可も出さなかったため、PDCは日本国内に限定されたローカル規格となりました。これは、国際的な標準化の流れの中で、日本の独自の技術戦略を選択した結果といえます。

各キャリアにおけるサービス展開と3Gへの移行

NTTドコモのmovaを筆頭に、複数のキャリアがPDCサービスを提供していましたが、2000年代に入ると、より高度な通信技術である3G（FDD-CDMA）への移行が進みました。KDDI（au）は2003年3月にPDCサービスを終了しましたが、ツーカーグループの吸収合併により一時的にサービスが復活する場面もありました。その後、2008年にはソフトバンクモバイルもPDCサービスを終了。NTTドコモも、2008年に1.5GHz帯のシティフォン・シティオを、2012年にはmovaを終了させ、PDCは歴史の幕を閉じました。番号ポータビリティ制度導入後も、PDCへの転入はNTTドコモのみ可能という状況も、PDCの独自性を際立たせる要因の一つでした。

PDCの技術的特徴

PDCは800MHz帯と1.5GHz帯の周波数を使用し、50kHz帯域のπ/4DQPSKデジタル変調によるFDD-TDMA方式を採用していました。音声回線は20ミリ秒フレームで、フルレートとハーフレートの2種類がありました。フルレートでは11.2kbps、ハーフレートでは5.6kbpsの通信速度を実現。音声コーデックにはVSELP、CS-ACELP、ACELP、PSI-CELPなどが使用され、データ通信も回線交換とパケット交換の両方をサポートしていました。送信と受信を同時に行わない方式や間欠通信の採用により、バッテリー消費を抑え、待ち受け時間や通話時間を長くすることができました。この技術的な特徴が、PDCの大きな利点の一つでした。北米標準のD-AMPSとは、搬送波周波数間隔と通信速度を除き、ほぼ同様の技術を採用していました。

PDCの功績と終焉

PDCは、日本の携帯電話市場において、初期のデジタル通信を支えた重要な技術でした。独自の技術開発とローカル規格としての展開は、日本の技術力の高さ、そして技術戦略の成功例として評価できる一方で、グローバルな標準化の流れに乗り遅れた面もありました。3Gへの移行は時代の流れであり、PDCのサービス終了は必然的な結果だったと言えるでしょう。しかし、PDCが日本の携帯電話の歴史に刻んだ功績は、決して小さくないと言えるでしょう。その技術的特徴や、各キャリアによるサービス展開、そしてサービス終了までの歴史は、日本の通信技術発展の一端を垣間見ることができる貴重な事例として、今後とも研究・検証の対象として残るでしょう。

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