Cz75

Cz75：チェコスロバキアが生んだ名銃

Cz75は、1975年にチェコスロバキア（現チェコ共和国）で誕生した自動式拳銃です。その名称は、製造元であるチェスカー・ズブロヨフカ国営会社（Česká zbrojovka, n.p.）に由来します。主任設計者はフランティシェク・コウツキーで、その革新的な設計は、後の多くの銃器に影響を与えました。

開発の背景

第二次世界大戦後、共産党政権下にあったチェコスロバキアは、外貨獲得のため工業製品の輸出を推進していました。その中で、自衛用銃器も重要な輸出産品となり、高品質なチェコスロバキア製銃器は国際市場で高い評価を得るようになりました。1968年、輸出市場向けの9mmパラベラム弾薬を使用する拳銃の開発が計画され、コウツキーがその開発指揮を執ることになりました。

当初、コウツキーはコンパクトなシングルカラムマガジンを持つピストルを考えていましたが、1972年にチェコ産業貿易省から、軍や警察の需要を見込み、ダブルカラムマガジンの採用が指示されました。幾多の試作を経て、1975年にCz75が完成しました。

メカニズム

Cz75は、ブローニング式のショートリコイル作動方式を採用し、ダブルアクション機構を備えています。手動安全装置はコックアンドロック式、マガジンは複列単給弾（ダブルカラムシングルフィード）式です。フレームは鋼材製で、フレームがスライドを包み込む構造になっており、この構造はSIG SAUER P210と同じです。この構造により、スライドとフレームのガタつきを抑え、高い命中精度を実現しています。一方で、噛み合わせ部分に異物が侵入しやすく、操作ミスが起こりやすいという欠点も持っています。

また、射撃時に銃身の後退をフレームで直接受け止めず、スライドストップの軸を介して受け止めるという特徴的な構造のため、スライドストップが破損することがあります。

歴史

チェコスロバキアがワルシャワ条約機構の一員であったため、アメリカでは高額な輸入関税が課せられ、正規輸入には多額の費用がかかりました。そのため、1980年代前半のアメリカ市場では、ドイツやカナダ経由で個人輸入されたものや、間接的に輸入されたものが流通していました。

コウツキーが取得した特許が機密扱いだったため、イタリア、スイス、スペインなど、関税制限のない国でコピー製品が製造され、アメリカに輸出されていました。イタリアでは、Cz75をベースにしたタンフォリオ TA90が製造されました。

1980年代中盤には、カナダのバウスカ社が代理店となり、Cz75がアメリカ市場に流通するようになりました。この輸入モデルは、コスト削減のためエナメル塗装仕上げでした。

1989年以降、チェコの共産主義政権が崩壊すると、アメリカの輸入関税が撤廃され、Cz75の価格は競争力を取り戻しました。アメリカにはCZ-USA社が設立され、改良型のCz75Bをはじめ、様々なバリエーションが製造・販売されています。

前期型と後期型

Cz75には、製造時期や仕様によって前期型（ショートレイル）と後期型（ロングレイル）が存在します。

前期型（ショートレイル）

チェコスロバキアは当時共産圏であり、コストよりも品質を重視していました。そのため、前期型は最高級のスチール削り出し加工により、部品を薄くすることができ、人間工学的な設計と合わせ、握りやすさが特徴です。その品質の高さから、現在でも高値で取引されています。

ジェフ・クーパーは、Cz75を高く評価し、「もし.45ACP弾を使用していれば、世界最高のコンバットオートになるだろう」と述べました。

後期型（ロングレイル）

後期型は、生産性を向上させるため、製造方法が削り出しから精密鋳造に変更されました。これにより強度低下を補うため、スライドとフレームの形状が変更され、グリップも人間工学に基づいたデザインに変更されました。また、ハーフコックポジションが追加され、重量もわずかに増加しました。

後期型は、東欧民主化後も生産が続けられ、様々なバリエーションモデルのベースとなっています。

バリエーション

Cz75シリーズは、様々なバリエーションモデルが存在します。以下に主なモデルを紹介します。

CZ75 B: 3rdモデルの基本モデルで、オートマチックファイアリングピンブロック(AFPB)やラウンドハンマー、3点ドットサイトを備えています。マガジンの改良により装弾数は16発です。
CZ75 B Stainless: ステンレスモデルで、ハイポリッシュ仕上げとマット仕上げがあります。
CZ75 BD: マニュアルセーフティをデコッキングレバーに変更したモデルです。
CZ85 B: Cz75 Bをアンビ化したモデルです。
CZ75 B Omega Convertible: オメガトリガーシステムを搭載し、デコッキングレバーとマニュアルセーフティを簡単に変更できるモデルです。
CZ75 Compact: Cz75Bのコンパクトモデルです。
CZ75 Shadow: Cz75 Bの競技用モデルで、トリガーのキレを良くするためAFPBを省略しています。
CZ75 Kadet: トレーニング用の.22LRモデルです。
CZ97 B: .45ACPモデルです。
CZ2075 RAMI: Cz75 Bを小型化したサブコンパクトモデルです。
CZ75 SP-01: Cz75 Bをベースにライトレールを追加したモデルです。バンパー付きマガジンが標準装備されており、装弾数は18発です。
CZ75 SP-01 Tactical: マニュアルセーフティをアンビデクストラス仕様のデコッキングレバーに変更したモデルです。
CZ75 SP-01 Phantom: Cz75 SP-01をポリマーフレーム化したモデルです。
CZ75 SP-01 Shadow: SP-01の競技用モデルです。
CZ75 Shadow 2: SP-01 Shadowをベースに大幅な再設計がされたモデルです。
CZ TS(tactical sports): シングルアクション化された競技用モデルです。
CZ TS2: CZ TSにさらに改良を加えたモデルです。
CZ75 P-01: SP-01のコンパクトモデルで、アルミフレームとデコッキングレバーが特徴です。
CZ P-07: 最新のコンパクトモデルで、ポリマーフレーム、オメガトリガーシステムを採用しています。
CZ P-09: P-07のフルサイズ版です。
CZ75 FullAuto: 法執行機関用のマシンピストルモデルです。

採用実績

Cz75シリーズは、そのコストパフォーマンスから、チェコを中心に中央ヨーロッパや東ヨーロッパ諸国の法執行機関で採用されています。アジアでは、中国や北朝鮮などでコピー品が製造・使用されています。近年では、SP-01やP-07などのセールスを強化しています。

その他のCz75

Cz75は、他社にも大きな影響を与えており、数多くのクローン製品や派生モデルが製造されています。主なものとして以下が挙げられます。

タンフォリオ TA90: イタリアのタンフォリオ社が製造したCz75のクローンで、Cz75よりも早い段階でアメリカ市場に投入されました。
ジェリコ941: イスラエルのIMI社がタンフォリオ社の技術提供を受けて開発したモデルです。
ドーナウス&ディクソン ブレン・テン: Cz75を参考にして開発された10mm口径のコンバットピストルです。
アーマライトAR-24: アーマライト社が製造したCz75のコピーモデルです。
スプリングフィールドP-9: スプリングフィールドアーモリーが製造したCz75のコピーモデルです。
コルトZ40: コルト社がCz社と提携し製造したモデルですが、Cz社が製造していたためクローンとは言い難いです。
ソロサーンAT84S: スイスのソロサーン社が製造したコピーモデルです。
スフィンクス: スイスのスフィンクス社が製造した、Cz75をベースにアレンジを加えたモデルです。
NORINCO NZ75: 中国の北方工業公司が製造したコピーモデルです。
白頭山拳銃: 北朝鮮で製造されたCz75のコピーモデルです。

まとめ

Cz75は、その優れた設計、高い品質、そして多様なバリエーションによって、世界中の銃器愛好家から愛され続けている名銃です。その歴史と影響は、今後の銃器開発にも大きな影響を与え続けるでしょう。

参考文献

チェスカー・ズブロヨフカ株式会社（Česká zbrojovka, a.s.）
CZ-USA official website
タンフォリオ official website

関連項目

拳銃一覧
タンフォリオ TA90
ジェリコ941
ブレン・テン

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