かいれい

深海調査研究船「かいれい」：日本の海洋研究を支える探査船

1995年の阪神・淡路大震災を受け、地震防災対策強化のため、1996年度から政府主導の大規模な地震研究プロジェクトが開始されました。このプロジェクトにおいて、海洋研究開発機構（JAMSTEC）は海底下深部構造の解明という重要な役割を担い、その実現のために建造されたのが深海調査研究船「かいれい」です。

「かいれい」は、JAMSTECの既存調査船「よこすか」の設計をベースに、作業効率や研究環境の向上を徹底的に追求して建造されました。船体形状は「よこすか」とほぼ同様ですが、作業甲板の設計変更により、2層の全通甲板を備えた長船首楼型という特徴的な船型となりました。また、船首にはバルバス・バウ、船尾にはトランサム型を採用することで、航行性能と安定性の向上を実現しています。

「かいれい」の大きな特徴は、長期間にわたる調査航海の快適性を重視した設計にあります。居住区画は機関室前部と上甲板の4層に配置され、研究員や乗組員全員が個室または4人部屋（寝所は個室）を使用できるようになっています。さらに、通路幅を120cmに広げるなど、船内での移動をスムーズに行えるよう細やかな配慮がなされています。

機関系においても、水中放射雑音低減のための対策が徹底されており、主機関や減速機などは防振ゴムで支持され、配管にはフレキシブルジョイントが使用されています。また、プロペラはキャビテーションによる騒音を低減するため、多翼化・大径化・低回転化が図られています。精密な操船が求められることから、バウスラスタやジョイスティック式の操縦装置も搭載されていますが、自動船位保持装置（DPS）は搭載されていません。

「かいれい」の主要な役割は、深海探査機「かいこう」の運用支援です。そのため、高精度の測位・地形調査システムが搭載されています。GPSやディファレンシャルGPS、音響航法装置（SSBL方式とLBL方式）などを用いることで、「かいこう」を高精度に誘導することが可能です。海底地形調査には、マルチビーム音響測深機（MBES、シービーム2112.004型、後にシービーム3012型に更新）が搭載されており、高精細な海底地形図の作成が可能です。さらに、重力計や磁力計なども搭載されており、地球物理学的データの取得にも貢献しています。

地質・地層調査においては、マルチチャンネル反射法地震探査（MCS）システムが中核を担っています。高圧空気で発生させた振動波が海底下数十キロメートルまで到達し、反射波を解析することで、海底下の地層構造を詳細に探査します。このシステムは、「かいよう」で試験運用されたものを改良して搭載されました。また、海底表層の地層構造を調査するための地層探査装置（SBP）も搭載されており（シービーム3012への更新に伴いBathy2010に更新）、多角的な地質調査を可能にしています。さらに、ピストンコアサンプラやドレッジャーなどの試料採取装置も搭載され、海底試料の採取と船上での分析も可能です。

「かいこう」の着水揚収システムは、「よこすか」のシステムを改良したものです。Aフレームクレーンと別索着水揚収装置などを用いて、「かいこう」の安全な運用をサポートします。「かいこう」は事故により失われた後、後継機である「かいこう7000」シリーズや大深度小型無人探査機「ABISMO」が運用され、「かいれい」はこれらの運用母船としても重要な役割を果たしました。

「かいれい」は、竣工以来、様々な海洋調査や深海探査任務に就き、数々の成果を上げてきました。対馬丸の調査、H-IIロケットの残骸発見、えひめ丸沈没事故の遺留物回収など、その活動は海洋科学の発展に大きく貢献しています。また、映画作品にも登場するなど、広く一般にも知られる存在となっています。現在も海洋研究開発機構の主力船として、日本の海洋研究を支え続けています。

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