アメミット

アメミット（Ammit）

アメミット、あるいはアメミト、アンムトなど様々な名称で呼ばれるこの存在は、古代エジプト神話における冥界に棲む幻獣の一種です。その名の響きからして恐ろしさを感じさせますが、実際に「死者を食らうもの」、または「死者を呑みこむもの」という意味を持ち、古代エジプト人の死生観において重要な役割を担っていました。

冥界における役割：心臓の計量と魂の滅亡

アメミットの最もよく知られた役割は、冥界アアルで行われる死者審判の場面にあります。これは、死者が来世へと転生できるかどうかを決定する重要な儀式です。この審判では、死者の心臓（古代エジプト語でIb）が、真理と正義を象徴する女神マアトの羽根（「真実の羽根」とも呼ばれる）と天秤にかけられます。

審判を司るのは、ジャッカルの頭を持つアヌビス神や、隼の頭を持つホルス神とされることがあります。天秤の傍らでは、トキの頭を持つ書記官トート神がその結果を厳かに記録します。

もし死者の心臓が生前の罪や悪行によって重くなり、マアトの羽根よりも重く傾いた場合、その魂は来世へ進む資格を失います。ここで登場するのがアメミットです。彼女は天秤の近くで待機しており、審判によって罪深いとされた死者の心臓を容赦なく貪り喰らいます。

古代エジプトでは霊魂の不滅が信じられていましたが、アメミットに心臓を喰われた魂は、二度と転生することも、祝福された霊魂（アク）となることもできず、永遠に消滅するという破滅的な運命を迎えるとされていました。

『死者の書』との関連

アメミットは、来世への手引きとなる葬送文書『死者の書』、特に第125章に頻繁に描かれています。この章はまさに「心臓の計量」の場面を詳述しており、パピルスに描かれる絵図の中にアメミットの姿が見られます。

エジプト新王国時代（紀元前16世紀〜紀元前11世紀頃）には、墓の壁画や葬送文書パピルスに描かれましたが、後の時代になると棺の内側や外側にも描かれるようになりました。『死者の書』の著名な例としては、《アニのパピルス》や《フネフェルのパピルス》といった第19王朝時代のものが挙げられます。

興味深いことに、『死者の書』は単なる手引きではなく、一種の護符や保証符としての役割も持っていたと考えられています。この書を副葬された死者は、審判を滞りなく通過し、アメミットに心臓を喰われる危険を回避して、無事にオシリス神に謁見できると信じられていました。この場合、アメミットは空腹のまま出番を失うことになります。

アメミットの概念の起源は、中王国時代のコフィン・テキスト（棺に記された呪文集）にまで遡ることができるという指摘もあります。例えば、ある呪文には「数百万を呑むもの」（アム＝ヘフ）という、アメミットを思わせる存在が登場し、死者審判に関わっています。

恐るべき外見：合成獣の図像学

アメミットは女性として描かれることが多いですが、その外見は非常に特徴的な合成獣です。

最も一般的な図像は、以下のような動物の要素を組み合わせた姿です。

頭部: ナイルワニ
前足と上半身: ライオン（またはヒョウ）
* 下半身: カバ

これらの動物は、古代エジプト人にとって強大で危険な存在でした。ワニはナイル川に潜む脅威、ライオンは砂漠の支配者、カバは予測不能な力を持つ動物です。これらを組み合わせたアメミットの姿は、悪しき魂を完全に滅亡させるという、彼女の容赦ない性質を視覚的に表現していると言えます。

上半身については、鬣の有無から雌ライオンとも雄ライオンとも解釈される場合があります。有名な《アニのパピルス》では、鬣の代わりに儀礼用の頭巾ネメスをかぶっているようにも見えます。

ただし、このようなワニ＝ライオン＝カバの合成獣として描かれるのは、主にエジプト新王国時代までの慣習でした。後の時代、例えば第22王朝頃には、カバのような頭部に、乳の垂れ下がった犬のような胴体をした、より異様な姿で描かれる例も見られます。貴族アンクホルの棺蓋に描かれたアメミットなどがこの例です。

アメミットは、古代エジプトの信仰において、単なる怪物ではなく、人々が生前どのように生きるべきか、倫理的な行いが死後の運命を左右するという教えを強く印象づける、象徴的な存在であったと言えるでしょう。

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