アンタール

アンタール 作品9

『アンタール』作品9は、ロシアの作曲家ニコライ・リムスキー＝コルサコフ（Nikolai Rimsky-Korsakov, 1844-1908）によって1868年に作曲された管弦楽作品です。この作品は発表当初、嬰ヘ短調の交響曲第2番として構想されました。その後、作曲者は1875年と1897年の二度にわたり改訂を施しました。特に最終版である第3版（1897年）では、ジャンルを交響曲から交響組曲へと変更しています。現在一般的に演奏されているのはこの第3版ですが、作品が辿った経緯からか、本来のジャンルである交響組曲としてよりも、交響曲第2番の呼称で親しまれることが少なくありません。

1875年の第2版は翌1876年にベッセル社から出版されましたが、1897年の第3版は作曲者の死後に出版されました。

作品の背景と内容

作品の内容は、6世紀アラビアの伝説的な詩人アンタール（アラビア語名はアンタラ・イブン・シャッダード、ʿAntarah ibn Shaddād al-ʿAbsī）の物語に基づいています。人生に絶望し、隠者のようにシリアのパルミラの廃墟に暮らしていたアンタールが、ある日見た夢の中で体験する出来事と、そこで彼に約束される人生の「3つの喜び」が音楽で描かれています。

リムスキー＝コルサコフの代表作の一つである交響組曲『シェヘラザード』と同様に、本作もまた作曲家が得意とした異国情緒、とりわけ東洋的な響きに満ち溢れています。特に中東の民謡に基づいた旋律が主題として効果的に用いられており、作品全体の雰囲気を特徴づけています。

標題のあらすじ

物語は、世をはかなんでパルミラの廃墟に身を隠していた英雄アンタールから始まります。ある日、アンタールは一頭のカモシカを襲おうとする巨大な鳥を目撃し、槍を投げて鳥を追い払います。救われたカモシカは、実はパルミラの妖精の女王ギュル・ナザールでした。感謝した女王はアンタールを自身の宮殿へ夢の中で招き入れ、その礼として「人生の3つの喜び」――復讐、権力、そして愛――を彼に与えることを約束します。

構成

作品は、この物語に沿って4つの楽章で構成されています。

第1楽章「アンタールの夢」
Largo - Allegro - Largo - Allegretto - Adagio - Allegretto - Largo
荒涼とした廃墟の情景、アンタールの孤独、そして鳥の攻撃と女王の出現、さらには夢の中の宮殿での出来事が描かれます。

第2楽章「復讐の喜び」
Allegro - Molto allegro - Allegro - Molto allegro
女王から与えられた最初の喜びである復讐の成就を描写します。

第3楽章「権力の喜び」
Allegro risoluto alla marcia
二つ目の喜びである権力を得て、力強く行進する様子を表現します。

第4楽章「愛の喜び」
Allegretto vivace - Andante amoroso
最後の喜びである愛が描かれます。しかし、再び人生に倦んだアンタールは、女王との愛の中で安らかに最期を迎えるという結末を迎えます。

初演

作品の初演は、1876年にサンクトペテルブルクで行われました。この際に演奏されたのは、1875年に改訂された第2版です。

楽器編成

現在主に演奏される第3版に基づく楽器編成は以下の通りです。

フルート 3 （うち1人はピッコロ持ち替え）
オーボエ 2 （うち1人はイングリッシュホルン持ち替え）
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 4
トランペット 2
トロンボーン 2
バストロンボーン 1
チューバ 1
ティンパニ （3台）
トライアングル
タンバリン
大太鼓
シンバル
タムタム
ハープ
弦五部
第1ヴァイオリン （16人、ソリ指定あり）
第2ヴァイオリン （14人、ソリ指定あり）
ヴィオラ （12人）
チェロ （10人、ソリ指定あり）
コントラバス （8人）

この編成は、大規模な管弦楽と豊富な打楽器、そして弦楽器のソリが作品の色彩豊かな響きを支えていることを示しています。

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