アーネンエルベ

アーネンエルベ：ナチス・ドイツの謎めいた研究機関

アーネンエルベ（Ahnenerbe、祖先の遺産の意）は、ナチス・ドイツにおいて1935年に設立された親衛隊直属の研究機関です。その目的は、アーリア人種の起源と優越性を「科学的に」証明することでした。親衛隊全国指導者であったハインリヒ・ヒムラーの強力な後援のもと、様々な分野の研究が行われましたが、その多くは疑似科学やオカルトに分類されるものでした。

設立の経緯

1920年代後半から急速に勢力を拡大した親衛隊は、ヒムラーの指揮の下、人種的に選別されたエリート集団を目指しました。1931年には親衛隊人種及び移住本部（RuSHA）が設立され、親衛隊員の選抜基準の厳格化や、ルーン文字などの「北方人種の歴史」に関する教育が行われるようになりました。

アーネンエルベの設立は、この流れの延長線上にあると言えるでしょう。1935年、ヒムラーは人種学の専門家たちと会談し、「ドイツ先祖遺産・古代知識の歴史と研究協会」を設立。その後、名称を短縮して「アーネンエルベ」となりました。当初はヘルマン・ヴィルト博士が総裁を務めましたが、その後ヴァルター・ヴュスト博士が後任となります。ヴュストはアーネンエルベの本部を拡張・移転するなど、機関の拡大に尽力しました。また、アーネンエルベは親衛隊と密接な関係にあり、ヒムラーの副官であるカール・ヴォルフの傘下におかれるなど、親衛隊内部での高い地位を確立していました。

研究活動

アーネンエルベの研究活動は多岐にわたりました。考古学、言語学、民俗学、そしてオカルト的な研究まで含まれていました。その活動には、以下のようなものがあります。

疑似科学的研究: アーリア人の祖先が世界を支配していたという主張を裏付けるための、考古学的調査や文献研究が行われました。カナリア諸島のグアンチェ族のミイラをアーリア人の祖先と結びつけるなど、科学的な裏付けのない主張も多数ありました。
オカルト研究: 占星術、ルーン文字、古代神話など、オカルト的な研究も盛んに行われました。ヒムラー自身もオカルトに強い関心を抱いており、アーネンエルベの研究は、彼の思想と深く結びついていたと考えられます。
人種研究: アーリア人種の優越性を証明するための研究が行われました。人種的な特徴や遺伝に関する研究も、その多くは科学的根拠に乏しいものでした。
出版活動: アーネンエルベは機関紙『ゲルマニア』を発行し、アーリア民族の優秀性を宣伝しました。

アーネンエルベの研究活動は、ナチス政権のイデオロギーを支えるものでした。歴史的事実を歪曲し、疑似科学やオカルトを駆使することで、アーリア人種の優越性を強調し、ナチスの政策を正当化しようとしていました。

研究部門

アーネンエルベには、多くの研究部門が存在していました。考古学関係の部署が最大規模でしたが、それ以外にも多様な分野の研究部門が設置されていました。社会科学、自然科学、さらにはオカルト科学に関連する部門までありました。これらは、アーリア人種に関するあらゆる側面を研究することを目的としていたことを示しています。これらの部門では、多様な研究活動が行われ、その成果はナチスのプロパガンダに利用されました。

戦後

第二次世界大戦の終戦後、アーネンエルベは解体されました。しかし、アーネンエルベに関わった研究者たちの多くは、戦後も大学や研究機関で活躍を続けました。彼らの活動が戦後の学界にどのような影響を与えたのか、現在も議論の対象となっています。

アーネンエルベは、ナチス・ドイツのイデオロギーと科学研究がどのように結びついていたのかを示す、重要な事例です。歴史的事実の歪曲や疑似科学の利用といった、その活動内容は、現代においても警鐘を鳴らすものです。

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