イクパスイ

イクパスイについて

イクパスイ（アイヌ語: ikupasuy）とは、アイヌ民族が儀式で使用する木製の祭具であり、酒を神々や先祖に供える際に用いられます。日本語では「捧酒箸」や「奉酒箸」とも呼ばれ、神と人間を繋ぐ重要な役割を担っています。本記事では、イクパスイの特徴や文化的な位置づけ、またその一種であるキケウㇱパスイについても詳しく解説します。

名前の由来

イクパスイという名称は、アイヌ語の「イク（iku）」と「パスイ（pasuy）」から成り、「酒を飲む箸」という意味になります。樺太方言においては「イクニㇱ（ikunis）」という言葉が使われ、こちらも同様に「酒を用いる棒」という意味です。日本語では、先祖や神に対して酒を捧げる意味合いから捧酒箸と訳されています。過去には「ひげべら」といった名称も使われていましたが、これは誤解から生まれたものです。

文化における位置づけ

イクパスイは、イナウ（木幣）と同様に神聖な存在と見なされ、人々の願いを神々に伝える媒介としての役割を担っています。このように、特別な意味合いを持つ器具であり、文化的に重要な位置を占めています。

使用方法

カムイノミ（神事）やシンヌラッパ（先祖供養）など、酒を用いるさまざまな儀式に欠かせない存在です。使用する際は、イクパスイの先端を酒に浸し、その滴を火やイナウに振りかけて供えます。人間の言葉は神々に直接届かないとされており、イクパスイを介すことで、言葉が正確に届くと考えられています。捧げた酒の滴は、神々の世界に広がり、神々もその酒を味わうと信じられています。

特徴

外見

イクパスイは、約30センチメートルほどの長さの木の棒を彫刻し、平らに削って作られます。通常、表面には装飾的な彫刻が施され、一端は尖っています。その尖端の裏側には「パルンぺ」と呼ばれる矢尻の形の彫刻があり、この部分がないと神々に言葉が届かないとされています。また、裏面には個人の印である「アイシロシ」、表面には祖先の印である「イトゥクパ」が刻まれています。特にイトゥクパが刻まれたものは一つだけしかなく、狩猟の際には常に持ち歩くことが義務付けられていました。

装飾と文様

イクパスイには、彫刻や漆、金属プレートなどを用いて様々な装飾が施されることがあります。人類学者フォスコ・マライーニによると、これらの装飾は、動植物や物の姿を描いたもの、象徴的な形、抽象化された文様などに分類されるとされています。

材質

イクパスイには、イタヤカエデやノリウツギ、イチイなど、加工しやすい木材が多く使用されます。通常は真っ直ぐな木を使いますが、湾曲した木や自然形状を持つ木をそのまま利用したものもあります。

キケウㇱパスイ

イクパスイの一種として、キケウㇱパスイ（削り掛けつき捧酒箸）も存在します。主にヤナギやミズキで作られ、装飾は施されないことが多いです。特徴としては、上面に削りかけが数箇所あり、重要な儀式において使用されます。この道具も、儀式が終わると火にくべられるなど、供物として扱われます。

まとめ

イクパスイは、アイヌ文化において欠かせない祭具であり、神々との繋がりを深める大切な役割を果たしています。様々な形や装飾が施されたこの祭具は、その実用性だけでなく、文化的な価値も非常に高いと言えるでしょう。

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