ウェルロッド

ウェルロッド：第二次世界大戦を彩った英国特殊作戦用消音拳銃

第二次世界大戦下、英国特殊作戦執行部（SOE）によって開発されたウェルロッドは、その高い消音性と隠密性を誇る特殊作戦用拳銃として知られています。本稿では、この独特の拳銃の設計、製造、運用、そしてその歴史的背景について詳細に解説します。

開発の経緯

1940年7月、英国にSOEが設立されました。その傘下のステーションIX（相互勤務調査局）では、ナチス占領下のヨーロッパにおける抵抗運動支援のための特殊装備開発が進められていました。ヒュー・リーブス少佐を中心としたチームが開発した最初の試作消音拳銃は「モデル1」と呼ばれ、ボルトアクション式小銃を思わせる独特の形状が特徴でした。改良を重ねた結果、1943年頃には現在「ウェルロッドMk.IIA」として知られるモデルが完成しました。

製造は、恐らくはバーミンガム・スモール・アームズ（BSA）など複数の英国企業が秘密裏に請け負ったと推測されています。銃には製造番号に加え、独自の記号が刻印されていたことから、その製造過程の機密性は徹底されていたことが伺えます。

運用と戦場

ウェルロッドMk.IIは1943年から配備が始まり、1943年末から本格的な量産に入りました。推定では1万4千丁以上が製造されたとされています。9mmパラベラム弾を使用するMk.Iも開発されましたが、大戦末期ということもあり、抵抗運動への供給は限定的だったようです。

その使用範囲は広範囲に渡り、フランスから満州まで、SOEの作戦に用いられました。ゲシュタポ要員などの暗殺、歩哨の排除など、まさに隠密工作に最適なツールとして活躍したのです。また、大戦後も朝鮮戦争、マラヤ危機、北アイルランド紛争など、様々な紛争において英国特殊部隊に用いられました。

アメリカにおける運用

1943年にはアメリカ海[[軍]]がウェルロッドMk.IIの試験を行い、特殊用途装備として採用しました。「Hand Firing Device Mark 1」などと呼ばれ、戦略情報局（OSS）、そして戦後の中央情報局（CIA）や特殊部隊などで長年に渡って使用されました。ベトナム戦争では、MACVSOG（南ベトナム軍事援助司令部付研究・観察グループ）にも配備されていました。

冷戦期には、ベルリンに秘密裏に配置されたアメリカ陸軍第39特殊部隊分遣隊（後に410に変更）にも装備され、米ソ戦争勃発時の敵後方浸透作戦に備えていたといいます。

ウェルロッドの構造とメカニズム

ウェルロッドは、直径約3cm、長さ約30cmの円筒形をした本体に、後部には握り付きのボルト機構が備わっています。本体には銃身とサプレッサーが一体化されています。銃口付近は凹んでおり、標的に密着させて撃つことで消音効果を高める工夫が施されています。

グリップはコルトM1903の弾倉にエボナイト製カバーを取り付けたもので、容易に隠匿することができました。弾倉には最大8発装填可能でしたが、マニュアルでは給弾不良防止のため5発以下を推奨していました。夜間射撃用の夜光塗料付き照準器も備えられていました。

作動方式は単純で信頼性の高いボルトアクション式です。コッキングは後部の握りを回して行います。本体側面のねじを外せばボルトを取り外すことができます。

消音器の仕組み

ウェルロッドの銃身に空いた穴は、サプレッサーへのガス排出による消音と、弾丸速度を音速以下に抑えるためのものです。特に9mmパラベラム弾を使用するMk.Iでは、この仕組みが重要でした。

サプレッサーは金属管内にバッフル、スペーサー、そして消耗品のゴム製ワッシャーが配置されています。ワッシャーは弾丸通過後に穴を塞ぎ、火薬ガスの排出を防ぎますが、数発の射撃で交換が必要でした。OSSの試験では、消音されていない.32ACP拳銃と比べて、ウェルロッドの騒音レベルが大幅に低いことが確認されています。

派生型

.32ACP弾仕様のMk.IIAとMk.II、そして9mmパラベラム弾仕様のMk.Iが存在します。Mk.Iは、Mk.IIの.32ACP弾の威力不足を補うために開発されました。Mk.Iはトリガーガード、レバー式安全装置などの追加、サプレッサー構造の変更などの違いがあります。アメリカではMk.IIを「Mk.I」と呼称していたため、混同されるケースもあるようです。

ウェルロッドが登場する作品

ウェルロッドは、様々なゲーム作品にも登場し、その高い知名度を反映しています。『Hitman2: Silent Assassin』、『スナイパーエリートV2』、『ドールズフロントライン』、『バトルフィールドV』、『メダルオブオナー ライジングサン』など、多くの作品で、その独特のデザインと高い消音性能が再現されています。

まとめ

ウェルロッドは、その高い消音性と隠密性、そして信頼性の高い設計から、第二次世界大戦以降も長きに渡って特殊作戦に用いられてきた、歴史的な拳銃です。その存在は、特殊作戦の歴史を語る上で欠かせないものと言えるでしょう。

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