エンパワーメント

エンパワメント：個人の能力開花と社会変革を促す力

エンパワメント（empowerment）とは、個人や集団が自らの生活を積極的にコントロールし、社会や組織に影響を与える能力を獲得することです。単なる能力向上だけでなく、社会構造や固定観念といった制約からの解放、潜在能力の最大限の発揮、そして主体的な社会参加を促す包括的な概念と言えるでしょう。

歴史と概念の変遷

エンパワメントという概念は、20世紀後半、特に女性運動や先住民運動、市民運動などの文脈において発展しました。ブラジルの教育思想家パウロ・フレイレの影響も大きく、平等で公平な社会の実現を目指す社会学的な概念として用いられるようになりました。

初期のエンパワメント論では、個人の自立促進に重点が置かれていましたが、その後、社会構造や資源へのアクセス、権利の保障といった側面がより重視されるようになりました。特に、女性のエンパワメントにおいては、能力不足という誤解を避けるため、社会的な抑圧からの解放と、能力発揮を阻む要因の解消を強調する声も出ています。

ジョン・フリードマンは、エンパワメントを育む資源として、生活空間、時間、知識・技能、情報、社会組織、ネットワーク、経済的資源などを挙げ、それらが相互に依存関係にあることを指摘しました。

エンパワメントの実践と多様な適用例

エンパワメントは、様々な分野で実践されています。

社会運動: マハトマ・ガンディーの非暴力抵抗運動やキング牧師の公民権運動は、エンパワメントの優れた事例です。これらの運動は、抑圧された人々に力を与え、社会変革を成し遂げました。日本の安保闘争や全共闘運動なども、エンパワメントの側面を有すると言えるでしょう。
地域社会: 地方自治や地域活性化において、市民の主体的な参加と地域への関与を促すために、エンパワメントの概念が重視されています。市民オンブズマン制度や行政アセスメント制度なども、エンパワメントの理念に基づいています。
企業: 企業活動においては、従業員の能力開発や権限委譲を通じて、エンパワメントが推進されています。従業員が自らの能力を最大限に発揮することで、企業全体の成長にもつながります。
保健医療福祉: 医療や福祉の現場では、患者や利用者の自己決定権を尊重し、主体的な生活を支援することでエンパワメントが実現されます。

さらに、エンパワメントには、セルフ・エンパワメント（自己実現）、ピア・エンパワメント（仲間との協力による実現）、コミュニティ・エンパワメント（地域社会での実現）といった種類があり、これらを組み合わせることでより効果的なエンパワメントが実現するとされています。

エンパワメントと関連概念

エンパワメントは、自己実現、ソーシャルスキル、自己決定、地域力、ソーシャルキャピタル、コミュニティ・ガバナンス、合意形成、自己啓発、セルフヘルプなど、多くの関連概念と密接に関連しています。これらの概念を理解することで、エンパワメントをより深く理解することができます。

まとめ

エンパワメントは、個人の能力開花と社会変革を促す重要な概念です。様々な分野で実践されており、今後もその重要性はますます高まると考えられます。個人の潜在能力を引き出し、より良い社会を築くために、エンパワメントの理念を理解し、実践していくことが重要です。

参考文献

『被抑圧者の教育学』パウロ・フレイレ著
『エンパワメントと人権』森田ゆり著
『癒しのエンパワメント』森田ゆり著
『産業カウンセリング辞典』日本産業カウンセリング学会監修
『いのちの輝きに寄り添うエンパワメント科学 だれもが主人公 新しい共生のかたち』安梅勅江他著
『子どもの未来をひらくエンパワメント科学』安梅勅江編著

もう一度検索