エンポリウム

エンポリウムの概念と機能

エンポリウムとは、古代ギリシアの都市国家ポリスにおいて、対外貿易が行われる特定の場所を指します。この名称は、ギリシア語で「emporeion」として知られ、旅を意味する「poreia」に由来しています。エンポリウムはまさに交易を目的とした港としての役割を果たしており、交流の場として多くの商人や旅行者が集まりました。

エンポリウムの構造

エンポリウムは、通常都市の中心から離れた位置に設定され、外来の交易者が都市内部に入ることなく取引を行えるよう配慮されていました。港や埠頭、水夫の宿泊施設、貯蔵庫、食材市場など、交易に必要な各種の設備が整えられたため、商取引を行うには最適な環境が提供されていたのです。

交易行為は、「ディグマ（deigma）」と呼ばれる埠頭で行われ、対外交易者は自らの商品をディグマに並べました。これらの取引においては、どのように貨幣を扱うかも重要であり、両替商であるトラペズィテース（trapezites）が、貨幣の両替や預金を受け付けて、スムーズな取引を補助していました。

穀物に限らず、物資の補給や戦利品の取引も行われるため、エンポリウムは商業活動の中心地としての機能を果たしていました。

古代エンポリウムの例

アテネのピレウスには有名なエンポリウムが存在し、他にもミレトス、ナウクラティス、アイノス、ビュザンティオン、テオドシア、パンティカパイオンなど、地中海や黒海沿岸の多くの地域にもエンポリウムが設けられました。古代の哲学者たちもその存在に言及しており、アリストテレスの『政治学』やクセノポンの作品にも見られます。

エンポリウムとローマ時代

古代ローマの時代に入ると、遠隔地の商人たちが商品を積み替える際の場所もエンポリウムと呼ばれるようになりました。考古学者のカール・レーマン＝ハルトレーベンは、地中海沿岸で現れた先史的エンポリウムの遺構を発見し、その起源をカルタゴ人による交易に求める見解を示しました。また、北ヨーロッパでも類似の遺構が見つかり、これらは「ヴィク（wik）」と呼ばれています。

市場の分化

経済学者カール・ポランニーは、古代ギリシアにおける市場はポリス内の地域市場と対外市場で分かれていると指摘し、地域市場のひとつの例としてアゴラ、対外市場の代表例としてエンポリウムを挙げました。対外的な取引の場としてのエンポリウムは、商業活動の発展においても重要な役割を担っていたのです。

このようにエンポリウムは、古代社会における貿易の仕組みと市民生活の中で非常に重要な役割を果たしていました。商業の基盤を形成するいくつもの機能をもったこの交易の場は、当時の経済活動だけでなく、文化的交流の場としても歴史に名を残しています。

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